『家族写真をめぐる私たちの歴史』 時代映す多様な言葉


社会
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『家族写真をめぐる私たちの歴史』ミリネ編、皇甫康子責任編集 御茶の水書房・2376円

 日々、あなたは誰とどんな時に写真を撮りますか? 大切な写真はありますか? その写真は誰と(が)見ますか?

 写真は、近代以降に広く定着した記録媒体であり、表現媒体である。本著は「家族写真」を通してジェンダー、民族的マイノリティーの表現活動の実践を試みている。1990年代以降の女性史・ジェンダー研究では、〈女性〉自身の中にある差別意識や、さまざまなマイノリティーへの無関心の問題について指摘がなされた。女性史の死角―それを乗り越えようとする果敢な試みの実践が続いている。本著は、その動向の一つの成果を示し、さらに歴史の語りを、「家族史」の位相へと広げた意義ある仕事である。

 本書は、一部「在日朝鮮人女性たち」、二部「被差別部落出身の女性たち」、三部「アイヌ、沖縄、フィリピン、スリランカ、ベトナムの女性たち」の三部構成となっている。書き手の24人の女性たち一人一人の手元に残る「家族写真」をめぐって紡がれた言葉は、一日一日の時間を積み重ねた個人の歴史でもある。日本に暮らす人々は多様であり、日本の歴史の広がりと奥深さを再認識する。そして時にその写真は、遠く離れて暮らす家族や親戚に「こう見てほしい」との〈願い〉も込められて、撮影され届けられた。

 沖縄関係では、新垣安子「フィリピンから日本へ―戦争で故国を離れた母のこと」、大城尚子「私のなかのオキナワ―祖父の死を受けて」、仲間恵子「沖縄から遠く離れて」、玉城福子「移動がくれた出会い」と、60代~30代の4人が寄稿している。「家族写真」の中にいる祖父母や両親が命の種を育み、そして繋(つな)がれた命である自分と向き合う作業は、時に過去の葛藤や沈黙した自らの思いにも触れ、楽な面だけではない。

 多様なルーツを持つ個人史・家族の歴史への視点は、その時代の政治状況や、日本社会を映し出す。24人の女性たちの言葉と、収録の「家族写真をめぐる私たちの歴史年表」とを合わせ読むと、近現代の日本とアジアが見えてくる。(粟国恭子・大学非常勤、女性文化史研究)

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 ミリネ 朝鮮語で「銀河」の意。1991年に発足した「朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会」が後に改名。点在する「在日」女性たちが集い、行動することで銀河のように輝きたいとの思いでつけられた。