『君よ観るや南の島 沖縄映画論』 憎めない沖縄映画への愛


社会
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『君よ観るや南の島 沖縄映画論』川村湊著 春秋社・2484円

 本書のタイトルに「沖縄映画論」とあるが、批評性は薄く、著者の「沖縄映画」に対する思いをつづったエッセーに近い内容だ。資料の精査と取材の踏み込みが少し足りない感じが否めない。事実違いや過剰な解釈がいくつか見られるのだ。

 例えば、宮平雅風監督の『新説・運玉義留』について、「戦前」に「琉球芝居の実演」をそのまま撮った「ビデオ作品」と紹介しているが、大間違い。1950年代に作られた劇映画である。そもそも、戦前にビデオ作品があるワケがない。著者はその後も「ウンタマギルー」の響きから「たまげる」を連想して独自の「運玉義留」論を展開させているが、僕にはそれこそ“たまげる”ほど滑稽に思えた。

 沖縄の空手青年役でデビューした高倉健の記述に〈本土復帰前に、沖縄ロケを初めて実現した劇映画は(略)『網走番外地 南国の対決』だったことは、面白い偶然〉とある。これも間違い。『~南国の対決』より7年も前の59年に『海流』という沖縄ロケの松竹映画がある。他にも『八月十五夜の茶屋』に登場する「サキニ」の名が「サキ兄(ニィ)」からきたと連想したり、『沖縄やくざ戦争』の国頭も「国の神」として解釈したりと、安易な推論が随所に。

 僕の作品『パイナップル・ツアーズ』も、舞台である架空の島が「具良間島」であることから、川島雄三の沖縄関連映画『グラマ島の誘惑』に対するリスペクトが示されている、と解釈しているが、その島の名付け親である僕から言わせると、ほぼ偶然だ。確かに『グラマ島~』から名前を頂戴したが、当時その作品は未見で、内容が沖縄と関係あることも知らなかった。

 …と、揚げ足を取るようなことばかり並べてきたが、どうも憎めない。筆者の「沖縄映画」に宛てたラブレターとして受けとれるのだ。前述の問題箇所も、思いの丈をつづる勢いや焦りから書いてしまったのではないか。持論を押しつける文体ではないので嫌みもない。慈しみさえ感じることもある。オススメです!
 (當間早志・映画監督、NPO法人シネマラボ突貫小僧)

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 かわむら・みなと 1951年、北海道網走市生まれ。法政大学国際文化学部教授。80年に「異様なるものをめぐって-徒然草論」で群像新人文学賞を受賞し、文芸評論を開始。

君よ観るや南の島: 沖縄映画論
川村 湊
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