『歩きはじめた沖縄』 日本の未来像へ導く


社会
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『歩きはじめた沖縄』緒方修著 花伝社・1620円

 第1章「自然」、第2章「歴史」、第3章「沖縄戦」、そしてようやく第4章で「辺野古はいま」。この構成は、沖縄の基地をめぐる今の状況に怒りと危機感を覚えている人たちには、あまりに胡乱(うろん)に感じられるかもしれない。

 だが、沖縄の自然を学ぶことは、世界遺産に申請すれば登録される可能性の高いサンゴ礁が広がる美しい海を破壊することが「イスラム国」の所業と何ら変わらないことを、沖縄の歴史を学ぶことは、「琉球処分」以前の沖縄は既に米国との間で条約を締結したれっきとした独立国であり、日本の領土であるという認識は自明ではなく、それゆえ日本政府に「国の都合」で沖縄に住む人々の生活を脅かす権利は決して無いことを、そして沖縄戦を学び、アメリカ軍の進軍ルートを歩き、今なお埋もれたままの無数の遺骨を収集することは、戦闘を長引かせて米軍を本土へ近づけないように沖縄を捨石として使う作戦により20万人もの生命を奪った日本軍部・政府の罪を知らしめ、証しを立ててくれるのである。

 そして、そうした沖縄の真実は、ぼくら一人でも多くの読者がそれを知ることによって、新基地建設を全力で阻止するために埋め立て工事現場の前に座り込む勇気ある人々とともに、辺野古への基地移転の欺瞞(ぎまん)とアメリカの属国といわれても仕方のない日本国の傲慢(ごうまん)を粉砕するのだ。

 海を埋め立てれば元に戻らない、軍事基地を造れば戦争の火種が2世紀も続く。人類の愚挙を終わりにしたいという思いを多くが共有するとき、沖縄は真に未来に向かって歩きはじめることができるだろう。そして日本もまた、そのあるべき姿を見出すことができるだろう。「非戦」を貫き、難民・移民を含め人口の1割程度を受け入れ、東アジアで最大の「あじーる」(=安心・安全に暮らせる場所)として変身を図る。著者が提案するこの日本の未来像は、とても素敵なものに思える。
 (福嶋聡・ジュンク堂書店難波店店長)

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 おがた・おさむ 1946年、熊本県生まれ。中央大卒。文化放送記者・プロデューサーなどを経て99年から沖縄大学教授。現在、東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター長、NPOアジアクラブ理事長など。

歩きはじめた沖縄  沖縄の自然と歴史、そして辺野古
緒方 修
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