「はいたいコラム」 乳製品の始まりはヤギ


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 大阪の万博記念公園にある「国立民族学博物館」へ行ってきました。会場入り口には「世界の民族文化に優劣はないという立場から様々な文化の間に見られる違いも、同じ時代を生きる人類の豊かな多様性を示しているという見方をとっています」と、展示のコンセプトが掲げられています。巡っていくと、地球上には本当にいろんな暮らしがあり、地域の特徴があるんだなと感じました。展示の最後が日本(稲作文化)になっているのですが、たどり着くまでに私は4時間もかかってしまい、地球一周したほどの見応えがありました。

 中央・北アジアの民族は「家畜とともに生きる」がテーマで、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ラクダからトナカイまで実にさまざまな家畜と関わっています。一番古いのはヤギで、紀元前7千年ごろの西アジアの遺跡からヤギの遺骨が出土しているそうです。人とミルクの関係は1万年と言われますが、人類が初めて享受したミルクはヤギの乳だったということなんですね。チーズやバターなどの乳製品も、ヤギの乳から発明されたようです。

 人間文化研究機構の小長谷有紀(こながやゆき)理事によりますと、「ミルクの価値」には、食品としての栄養価や機能性だけでなく、学術的な意義があるそうです。「搾乳は動物を殺さずに食料として利用する、人類と家畜との『共生』の産物である」ということです。肉利用も重要ですが、毎日搾るのですから関係が濃密なのかもしれません。ヤギの乳質はウシに近く、乳量はヒツジよりも多いため、ミルクと言えばヤギだったのですね。

 家畜と暮らし恵みを享受して、お互いが「共生」する。いまこそ重要な持続可能で多様な命を尊重する考え方は、ヤギとの関係がはじまりだったのです。最近また、ヤギの魅力が再評価されています。

 ヤギ愛好者・生産者・研究者が一堂に会する「全国山羊サミット」が11月12日に熊本県阿蘇で開かれます。私もヤギ好きジャーナリストとして、以前訪ねた中城村のはごろも牧場や糸満市のヒージャー汁などの事例から「山羊の多様性と補完性~人々の心を動かす山羊の力」と題してお話します。ミルクだってお肉だって個性ある方が豊かです。ヤギはそうした多様性の時代の象徴なのです。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。