【島人の目】ペンは剣より強し


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 ここアメリカでもケーブルなどでNHK放送を見ることができる。朝ドラ「ととねえちゃん」に出てくる俳優・唐沢寿明演じる「あなたの暮し」編集長の花山伊佐次の編集態度に、深い感銘と共感、羨望(せんぼう)を抱き「度が過ぎるほどの反骨精神」にはらはらしながら見ている。ドラマ自体はフィクションと銘打っているが、「あなたの暮し」は「暮らしの手帖(てちょう)」で、花山伊佐次は花森安治と実在のモデルである。

 花森安治の人物像を紹介したい。1911年神戸市出身、東京帝国大学卒、暮らしの手帖社創刊に携わる。豪放な性格、反骨精神と奇抜ながら真摯(しんし)な行動でも知られ、数々の逸話を残している。雑誌編集者、グラフィック・デザイナー、ジャーナリスト、コピーライターとして知られ、78年に死去した。

 「暮らしの手帖」は生活者の側に立ち、提案や長期間・長時間の商品使用実験を行うユニークな雑誌で、中立性を守るという立場から、企業広告を一切載せない、という理念の下に今日まで発行されている。死の2日前まで第一線で編集に当たった。

 それと関連して琉球新報と沖縄タイムスの編集局長の東京での共同記者会見の模様が頭に浮かんだ。2015年7月に行われた2紙編集長の沖縄の世論が左翼勢力に乗っ取られているとの発言に関し、両氏は戦後の新聞の成り立ちに言及。琉球新報の潮平芳和編集局長は「戦争につながる報道は二度としないとの考えがベースだ。世論をもてあそぶ新聞ならとっくに支持を失っている。地域の支持なくして新聞は成り立たない」と強調。沖縄タイムスの武富和彦編集局長は「戦争のために二度とペンを取らないとの決意が出発点で、今後も姿勢は変わらない。社の論説は世論に突き動かされたものであり、県民の思いを反映したものだ」と反論した。

 2人の共同会見は沖縄の2紙が今後も県民の立場に立って編集されることを強調したものだと思える。それは言い古された表現だが、花森安治の「ペンは剣より強し」、いわゆる民主主義の根幹に触れたような表現だと感じた。
(当銘貞夫通信員)