『女性記者が見る基地・沖縄』 「戦世」終わらせる誓い


社会
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『女性記者が見る基地・沖縄』 島洋子著 高文研・1404円

 米兵家族が多く住む住宅街でハロウィーンに菓子をもらい得意げだった少女。コザ近くで育ったその少女は新聞記者になり、誓いを立ててペンを執る。1991年琉球新報入社、同社で女性初の政治部長となった島洋子氏が執筆した本書は、沖縄の戦後と今を伝える。

 今年4月、元米海兵隊員の軍属による女性暴行殺人事件が発生。95年の少女暴行事件から21年たち、なぜ命を守ることができなかったのか。島記者の眼には「この島の女性たちにとって戦争は続いている」と映る。だから今度こそ「戦世」にピリオドを打ちたいと。「あのとき誓った責任を果たせなかった」のは自分。自らを責め、悔やむ。

 3年間東京支社で報道部長を務めた。在日米軍施設の74%を沖縄が負担しなければならないのはなぜか。これは差別ではないか。単独インタビューした菅義偉官房長官の答えはそっけない。「(辺野古の工事は)粛々と進めていく」「沖縄と本土に差はまったくない」。県民に対しまったく血が通っていないことがよくわかる。

 名護市辺野古の新基地建設をめぐり、翁長雄志知事と鋭く対立する安倍政権。著者は東京で沖縄のことがあまりに知られていないことに愕然(がくぜん)とする。そこで拡散され続ける沖縄への誤解。米軍基地が沖縄の経済発展の阻害要因になっていることや、集中する基地が「かごの卵」と評され、安全保障上のリスクが高まる状況を招くと反論し、「抑止力」への妄信を解こうと解説する。

 著者の言葉は率直だ。「国家権力のあまりの強権ぶりに崩れ落ちそうになる。しかし、ここで膝をついてはいけない。この状況を伝えていかねばならない」。この夏、東村高江の工事現場で機動隊に拘束されてもなお書き続けた記者も女性だった。「戦世」が続く沖縄で、権力に向き合う女性のしなやかさと強さを感じることのできる本書。沖縄と本土の戦後に横たわる落差を前にして再び心に誓う著者の切なる思いに、本土の人こそ触れてほしい。

 (斉加尚代・毎日放送報道局ディレクター)
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 しま・ようこ 1967年、美里村(現沖縄市)生まれ。91年琉球新報社入社。政経部、社会部、中部支社、経済部、政治部、東京支社報道部長などを経て2016年4月から政治部長。

女性記者がみる基地・沖縄
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