『ダルトン・トランボ ハリウッドのブラックリストに挙げられた男』


社会
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『ダルトン・トランボ ハリウッドのブラックリストに挙げられた男』 ジェニファー・ワーナー著梓澤登訳 七つ森書館・1728円

赤狩りに抗う作家の生涯

 チャップリンは、1952年にアメリカを追放された。平和主義を語るチャップリンの姿は、東西冷戦まっただ中のアメリカの自称「愛国者」たちからは、非アメリカ的な危険人物に見えたのだ。

 この時代のアメリカでは、非米活動委員会という、もっともらしい名称の委員会が、魔女裁判さながらの公聴会を開き、多くの芸術家らに共産主義者かどうかを問い、これに応じないだけでも、非米国的思想の人物として公職から追放した。世に言う赤狩りの時代である。これでハリウッドを追放された作家や役者は大勢いるが、最も有名な人物が、脚本家のダルトン・トランボだ。

 彼が特に名を残すのは、追放されてからも偽名を使って作品を執筆し続け、その状況下でアカデミー賞を2度も受賞したことによる。ちなみに名作と名高い「ローマの休日」もトランボが偽名によって執筆した作品。トランボは、その技量によって赤狩りを骨抜きにしたのだ。さらに1960年公開の映画で、トランボは実名でクレジットされ、表舞台に復活する。これによって事実上赤狩りの時代は幕を閉じた。

 そんなふうに象徴的な作家となったダルトン・トランボの生涯を追ったのが本書である。トランボが、赤狩りの時代をどう生き抜いたのか? という従来のアプローチだけでなく、その前後の時代も描くことで、反骨の作家、トランボが生まれ、赤狩り以降もどう生きたのか、初めて知ることができた。

 ただトランボの生涯という軸に縛られているため、トランボを際立たせる赤狩りという歴史的な事件の描き方がやや平板になってしまった感はある。ダイナミックな歴史ドラマを期待すると、やや肩透かしをくらうだろう。しかし、それゆえに重箱の隅をつつく資料としての価値は高い。

 特に最終章。トランボが亡くなる直前の物語は、やはり淡々としか描かれていないが、時代と戦った男の静かな幕引きが心に染みて、何度か読み返した。(真喜屋力・映画監督)
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 Jennifer WARNER 筆名。生年不詳。ブックキャップス社のライフキャップス・シリーズからの刊行書籍多数。

 あずさわ・のぼる 1946年生まれ。2007年から那覇市在住。

ダルトン・トランボ: ハリウッドのブラックリストに挙げられた男
ジェニファー ワーナー
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