弱視の空手王者、聖地・沖縄で汗 豪州のレイ・モーコムさん


この記事を書いた人 志良堂 仁
本場の空手を学ぼうと、門下生と稽古に励むレイ・モーコムさん(中央)=5日、那覇市泊のとまり会館

 2014年にドイツで開かれた空手世界選手権の視覚障がい形の部で優勝したレイ・モーコムさん(36)=オーストラリア=が1日に開幕した「世界空手1プレミアリーグ沖縄大会」に出場するため来県した。健常者と並んで出場し、惜しくも一回戦敗退となったが、「どんな人でも苦手やできないことはある。私は特別な存在ではない。大切なのは一つずつ課題を克服していくことだ」と胸を張った。

 生まれつきの弱視で、近くの人の輪郭は分かるが、細かい動きは見えない。シドニーで空手を始めたのは8歳のころ。父親は空手の経験がなかったが、モーコムさんのために空手道場に通い、空手の形を習得。近距離なら大まかな動きを捉えられるモーコムさんに教えた。健常者の2倍の時間をかけ、細かい動きは体で覚えた。

 11歳の時に初段を取得。黒帯を巻いた時は「この視力で形や組手をやるのは本当に難しかったから、自分を誇りに思えた」と振り返る。

 1999年に父と兄の2人を門下生として立ち上げた「進化道場」は現在、150人を抱えるほどに発展した。「沖縄の空手には強さの中に柔らかさがある。本物の空手を生徒たちに伝えたい」と約10人の生徒を連れて来県した。

 来県中の5日、空手1プレミアの個人形で優勝した喜友名諒選手らと共に那覇市のとまり会館で稽古に励んだ。空手の形で84年から世界選手権7連覇した県体育協会副会長の佐久本嗣男さんに直接指導を受けた。「人生で1番の思い出だ」と満足そうな表情を浮かべるモーコムさん。得意形「ウンスー」を披露した。

 稽古には那覇市のろう者で、15日に東京で開かれる全日本障がい者空手道競技大会に出場する新垣愛花さん(22)も参加。モーコムさんの形を初めて見た新垣さんは「目が見えなくても形に一生懸命取り組む気持ちがすごい。障がいは関係ない」と目を輝かせた。

 佐久本さんは「障がいは関係なく、一生懸命やれば何事も可能だと生徒たちに伝えたい」と目を細めた。

 世界選手権で視覚障がいの部ができたのは2014年。それまでは形も組手も一般の部に出場してきたモーコムさん。「空手の魅力は一生進化させることができることだ」と話し、今月末にオーストリアで開かれる世界選手権での優勝に照準を合わせた。(半嶺わかな)