「はいたいコラム」 稲刈りは持続可能な観光


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 静岡県は伊豆半島の西端にある松崎町へ稲刈りツアーに行ってきました。昔から半農半漁を営んできた石部の棚田は370枚の田んぼが連なる、それは見事な景観で、一時は荒廃していましたが、先人の思いを絶やしてはいけないと2000年ごろから復活させ、今では100組以上の棚田オーナーを募って米づくりをしています。

 この春、初めてお邪魔したとき、石積みのあまりの美しさと、ほとんどがご高齢の保存会の皆さんに胸を打たれ、こうした日本の片隅のシビアな現実と食を生み出す農村の美しさの両方を、都会に住む自分の友達にも知ってほしいと思ったのでした。

 念願かなって先日、静岡県と松崎町、旅行代理店の協力で1泊2日のツアーを組み、食や農業、商工会から料理番組プロデューサーまで総勢13人で行ってきました。

 黄金色に輝く棚田で実った稲をつかんでざくざくと鎌で刈り、竹や木で稲架(はさ)を組んで稲架干しをし、カエルやムカデが飛び出したと言っては大騒ぎし、大人の修学旅行さながらの体験です。保存会のお母さんたちがにぎってくれたヒジキのおにぎりや、川のりコロッケのおいしいこと!

 人口7千人の松崎町は「日本で最も美しい村」連合に加盟しています。小さくても独自の伝統文化を継承する全国64の町村と地域だけに与えられた称号で、沖縄では唯一多良間村が登録されています。

 旅ではそのほか、全国シェア1位を誇る「桜葉」の畑や塩漬け工場、伊那下神社の湧水、漆喰(しっくい)のなまこ壁、港の散策、地魚で手づくりした出来立てさつま揚げを食べ歩くなど町の食文化を楽しみました。何よりうれしかったのは、参加した友人知人ほぼ全員が、松崎町の営みと人柄に感動し、また来たいと言ってくれたことです。

 稲刈りの翌日は雨でした。バスの車窓から雨に煙る西伊豆の海を眺めながら、昨日自分たちが刈って稲架に干した稲の無事を思いました。参加者のみんなもこれからきっと伊豆に台風が上陸したり、何かあるたびにあの棚田を思うでしょう。滞在型の体験ツアーとは、田舎に親戚を持つようなものです。一度に1万人を呼び込むイベントよりも、100人が100回通うような旅と町の在り方が、これからは求められていると感じました。

 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

(第1、3日曜掲載)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。