『風に立つ石塔』 コンクリート建築のルーツ


社会
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『風に立つ石塔』 国梓としひで著 沖縄建設新聞・1300円

 「人生は偶然の巡り合わせに満ちている」と語る著者の言に本書の魅力が凝縮されているようだ。建築関係者でもなく、40年前に大宜味村でたまたま遭遇したコンクリート建築に感動を覚えたのがきっかけで、とんでもない労力を注ぐことになった著者。物好きといえばこれ程の人も少ないだろう。

 大正時代に、当時としては本土でも珍しいコンクリート建築を沖縄にもたらした熊本県出身の建築技術者、清村勉氏にまつわるエピソードを中心に物語は展開する。それは著者が丹念に足で集めた山のような記録が基となり、歴史小説のようでもある。

 沖縄の建築関係者にとってコンクリートは、現在では沖縄の風土ともなっており、そのルーツを知る上で大変興味深い。どのような人がどのような思いでどうもたらしたのか。そこにどんな出会いがあったのか。思いを巡らす楽しみが湧いてくる。

 事実は小説よりも奇なりとよくいわれるが、まさに人生は偶然の巡り合わせそのものにも思えてくる。しかし、一方では一つの目的、あるいは志を共有する人々のつながりという必然も読み取ることができる。

 沖縄の風土といえば、亜熱帯の気候とそれに伴う台風の怖さ。自然災害に悩まされ続けた経験があればこそ、その克服に向かっていこうとする意志は方向性を持ってつながってゆく。

 まだ建築物が住民も参加して手作りでできた頃、小学校等、みんなが使う公共施設を地域で造り上げられたというのは感激もひとしおであったに違いない。それは過去もそうであったように、現在もまた、各地の災害復興活動に、また、地域のさまざまな活動に表れている。著者が傾注した取材の原動力はこの人間愛にあるのかもしれない。そういう意味でまさに人生は感動に満ちているともいえよう。

 本書は沖縄建設新聞の記事として長く連載された内容をまとめてこのたびの上梓となった。建築関係のみならず広く一般の方々にも薦めたい。
 (小倉暢之・琉球大学工学部教授)

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 くにし・としひで 本名・國吉俊秀。1949年、コザ市(現沖縄市)出身。琉球大農学部卒、総理府沖縄開発庁、農林水産省畜産局を経て、沖縄総合事務局を退職。