『沖縄返還後の日米安保』 基地解決阻む「お守り」


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『沖縄返還後の日米安保』野添文彬著 吉川弘文館・6264円

 施政権返還後の沖縄における海兵隊の集中、駐留経費の日本側負担分担(「思いやり予算」)、日米防衛協力。密接に関連し合うこれらを軸に、日米安保の実相に切り込む。

 返還後の沖日米関係で「結節点」となった日本政府の、沖縄における米軍プレゼンスを「求めた」さまを丹念に実証している。米側が政治・軍事・経済情勢により削減を含む海兵隊再編を提案するのに対して、日本側はアジア太平洋への米国の関与が縮小することを恐れ、在沖海兵隊を求めるのだ。その際、外務・防衛官僚は「動きにくい」(逃げにくい)地上兵力として海兵隊を重視した。

 官僚たちは米国の在韓米軍撤退計画に対して、北朝鮮に誤った信号を送ることにもなると警告したが、筆者は、背景に地上兵力の撤退が「政治的・心理的に」悪影響をもたらすことへの懸念があり、そうした姿勢が「沖縄の海兵隊にも当てはまる」と指摘する。半島情勢が見通せるまで海兵隊を沖縄から「動かしたくない」、在沖米軍が台湾有事を生じさせない必要条件だとの思考や前提があったという、防衛次官経験者の証言が本書の議論を裏書きする。米側も日本の懸念を認識し、米軍は戦闘力以上に安全保障の「感覚」と「信頼」を与えるものと考えるようになる。

 ある評論家によれば、権力者によって正統とされる言葉を、人が自己の立場を擁護するため意味もわからず用いることを、言葉の「お守り的使用法」というそうだ。「日米安保」「在沖海兵隊」などは、基地問題を解決する気のない人々の「お守り」のようだ。普天間基地県外移設を阻む要因の一つである抑止力論の深層を本書にみる。

 「思いやり予算」については、基地の維持に関る費用は米国持ちだという地位協定の解釈を外務省・防衛庁・防衛施設庁・内閣法制局が総出で変更し導入した同予算が、在沖米軍基地の維持に大きな役割を果たしたという論点提起が重い。日米防衛協力については、防衛協力における在沖海兵隊の位置付け、役割、陸上自衛隊との関係が明確にされている。
(明田川融・法政大非常勤講師)

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 のぞえ・ふみあき 1984年滋賀県出身。一橋大学経済学部卒、同大学院法学研究科博士課程修了。現在、沖縄国際大学法学部地域行政学科准教授。

沖縄返還後の日米安保: 米軍基地をめぐる相克
野添 文彬
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