沖縄手帳飾る 自閉症・山口さんの書「花」


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繊細なタッチの「花」の作品を手にする山口那智さん(右)と、沖縄手帳を手にする母・美智子さん=10月19日、琉球新報社

 身長176センチの大きな体から生み出される優しいメッセージが、多忙な現代人の心に染みわたる。「2017年度版沖縄手帳」の裏見開きに、高機能自閉症の山口那智(なち)さん(21)=宜野湾市=の書「花」が掲載されている。母の美智子さん(54)は「見る人が少しでもホッとしてくれれば何よりもうれしい」と語る。

 那智さんは現在、宜野湾市の就労支援事業所くくるばなに通う。月に1度、くくるばなの外部講師で書アーティストの善隆さんから指導を受けている。「花」を書いたのは高校生の時。作品を見た善隆さんが、才能を認め、書を続けるきっかけになった記念の作品だ。那智さんは「選ばれてびっくりした」と振り返る。

 来年で23年目を迎える沖縄手帳は、毎年アール・ブリュットと呼ばれる障がい者の芸術作品を掲載してきた。手帳の発行人の真栄城徳七さんは「那智さんは、人に見られることを気にせず、書くこと自体に喜びを感じている。心が休まる作品で、多くの人に手に取ってほしい」と語る。

 美智子さんによると、那智さんは幼いころから文字が大好きで、趣味は図書館通いだった。広辞苑を3冊丸暗記するほど、飛び抜けた記憶力の持ち主だ。

 一方で、他人とのコミュニケーションは苦手だった。しかし、書道で新しい表現手段を身に付けた。繊細な優しい心が伝わる「花」とは対照的な、力強い書を書くことも。一度筆を持つと、ためらいなく一気に書き上げるという。

 「自閉症を個性の一つとして理解してもらい、地域の中で育ってほしい」という美智子さんの思いから、普通校で育った那智さん。美智子さんは「障がいのあるなしにかかわらず、どの子も、得意なことと苦手なことがある」と語り、「もっと地域で全ての人を支えられる社会になってほしい」と願っている。

 真栄城さんは「知らないから偏見が生まれる。手帳を通して自閉症やその他の障がいへの理解が深まればうれしい」と話した。

 手帳はハンディサイズが税込980円、ノートサイズが同1350円。県内の書店や県外わしたショップ、ネットなどで販売中。