「はいたいコラム」 心を解放する農園の力


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 島んちゅの皆さん、はいたい~。ビニールハウスのフェスに行ってきました。フェスとはご存じフェスティバルの略! 全国にいろんな野外音楽フェスはありますが、このフェスは畑のど真ん中! 東京都練馬区で300年以上続く白石農園さんのビニールハウスが会場です。100人は入れる大きなハウスで、野菜のコンテナを逆さにしたいすやベンチに座って、農園コロッケや豚汁など手作り料理を味わいながら音楽を楽しみます。

 サックス奏者の梅津和時さんや、知久寿焼さんといった一流アーティストによる演奏も、小春日和のハウスの中では、ほのぼのとして子どもたちは泥んこ遊び、大人たちはビールを飲んだり、畑でニンジン掘りをしたり、まるでむら祭りです。

 実は農園の白石好孝さん、宅地化が進んでいた都市近郊で農業を続けていくために「これからの時代、野菜を売るより野菜づくりのノウハウを売る方が面白い」と考え、1997年から「体験農園」を主宰し、実践されてきた都市型体験農園の第一人者なのです。行政や農協ではなく、農家が自分の農地を体験農園にするには、農地法などの問題がありましたが、仲間と何年も勉強会を開いて仕組みを確立し、今、練馬区では17カ所に広がり、他地域にも展開しています。

 白石農園では現在、134区画に年間3万8千円の利用料で野菜づくりを楽しむ人たちがいます。収入以外に得た思わぬ宝物とは「農」の体験を求める都市住民が多いこと、農には癒やしや感動があること、そして体験から農への理解が生まれると学んだことだそうです。畑を開放することで理解者が集まったのです。

 ライブの締めは白石さんの歌でした。畑に家族や友人・知人、地域の人を招き、収穫を喜び合い、祝い合う、これぞ「収穫祭」です。自分の畑で収穫祭ができるとは、なんて幸せなんでしょう。昔ながらの祭りが消えていく一方、こんなにあちこちでフェスがはやっているのは、人々が「祭り」を求めている証拠です。誰だって時々は野外で無礼講になる息抜きが必要です。働き方が問題になっている時代、都会にこそ、土に触れ、植物の匂いや自然の風を感じ、飲んで歌ってお祭り騒ぎできる心の解放の場としての「農」の意義を感じました。

 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。