「はいたいコラム」 小さな土地を耕す人の美しさ


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 島んちゅのみなさん、はいたい~!。静岡県浜松市、天竜川の上流にある龍山地域(旧・龍山村)は2005年、浜松市に合併され、浜松市は日本で2番目に大きな市となりました。(ちなみに1番は岐阜県高山市です)。龍山の人たちは、自分たちの村らしさを忘れないで誇りを持ち続けるため「NPOほっと龍山」を立ち上げました。石垣の家や茶畑が点在する険しい地形で、田んぼはありません。大きな市に飲み込まれまいとふんばる小さな村の人々の気持ちを知りました。 

 「大きいことはいいことだ」。有名なコマーシャルが制作されたのは1964年。あれから半世紀たち、最近は大きいよりも「スモールイズビューティフル」が見直されているように感じます。1973年にイギリスの経済学者、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーが著した小論エッセイのタイトルで、大量消費の経済と、科学技術万能主義を批判し、地球環境に配慮し、人間の身の丈に合った、精神性のある経済政策を提唱した内容です。「小さいことは美しい」。そこにはささやかなものを大切に慈しむ愛情が感じられます。

 龍山に伝わる在来作物「赤芽芋」の畑を訪ねると、収穫を終え、種芋を畑の隅に埋めるところでした。芋の上に杉の枝と葉っぱをかぶせてから土をかけます。チクチクする杉の葉がネズミ除(よ)けになるそうです。山の資源を生かした知恵です。

 龍山には「瀬尻の段々茶園」という石積みの茶園があります。0・4ヘクタールの小さな敷地に40枚連なる畑の幅は1メートルほどで、足を踏み外さないよう歩くのもやっとの階段茶園です。登っていくとみるみる下にいる人が小さくなり、天竜川が見下ろせました。耕して天に至る。断崖とおぼしき斜面にここまで石を積み上げて畑を開くとは、先人の仕事に心を打たれました。

 下まで戻ると、なんとこの石を積み上げた超本人!藤原久一さん(87歳)がいるではありませんか!伺うと、昭和13年から家族だけで作ったもので、久一さんは9歳から14歳まで6年がかりで石垣を築いたそうです。73年たった今まで一度も崩れたことはないと話してくれました。

 山あいの小さな農村を訪ね歩いて感じることは、人間の知恵と生きる力。そこには小さくても確かな美しさがありました。

 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。