【島人の目】トランプ次期大統領の罪


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 ついにトランプ米大統領が誕生することになった。反移民、人種差別、宗教差別など、米国の国是と世界の大勢に真っ向から対立する主張を旗印にして選挙戦を戦ったトランプ氏は、就任後に有能な大統領に化ける可能性ももちろんある。アメリカを建て直し、中東からISを追い出し、欧州や日本などの同盟国ともうまくやっていくかもしれない。

 だが彼は、「差別や憎しみや偏見などを隠さずに、しかも汚い言葉を使って公言しても構わない」という考えを人々の頭に植え付けてしまった。つい最近まで、つまりトランプ氏が選挙キャンペーンを始める前まではタブーだった「罵詈(ばり)や雑言も許される」といった間違ったメッセージを全世界に送ってしまった。

 それは、人類が多くの犠牲と長い時間を費やして獲得した「寛容で自由で、かつ差別や偏見のない社会の構築こそ重要だ」という概念を粉々に砕いてしまったことを意味する。その罪は重い。

 彼の愚劣な選挙キャンペーンによって開けられたパンドラの箱は、もう閉めることができない。トランプ氏はその一点で、この先も糾弾され続けなければならない。その罪科は、将来彼が偉大な大統領として歴史に名を残すことになっても帳消しにならないほどの大きなものだ。「本音を語ることが正直であり正しいことだ」と思い込んでヘイトスピーチを行い、それを容認し、本音の中にある差別や偏見から目をそらす者は、さらなる偏見や差別思想に絡め取られる危険を犯している。それがトランプ氏であり、選挙戦中の彼のレトリックである。大統領に当選したからといって、無条件に彼を祝福する理由はまだ何もない。
(仲宗根雅則 イタリア在、TVディレクター)