日本政治の多くが米国に影響を受ける中、ワシントンで語られる日本は極めて一面的である。限られた米国人が対日政策を牛耳っていることがその要因だ。なぜ一握りの人間がそれほどの影響力を持ち得るのか-。本書は著者のワシントンでの体験を基にいびつな日米外交の実態を解き明かし、従来にない外交の構築を具体的に提言するものである。
米国の知日派といえばいつも同じ顔ぶれで、その数わずか30人程度。似通った対日観を持つ彼らの声が「米国全体の声」として日本に届く。実はそこに、日本政府や企業が直接的あるいは間接的に知日派へ情報・資金を提供している隠れた構造がある。さらに日本国内だとニュースにならないような事柄でも、ワシントン発となればメディアが大きく報じる。これを「ワシントン拡声器」と著者は称する。このからくりを知っている日本人が、自らの政策を実現するために知日派を利用しているのだ。知日派の影響力とはしょせんつくられたものにすぎない。
国際人権畑を歩いてきた著者はワシントン留学中の2009年、日本での政権交代をきっかけに沖縄に関わるようになる。米軍普天間飛行場の「最低でも県外(移設)」には米国内でさまざまな反応があったにも関わらず、日本ではほとんど報じられなかった。その時の強烈な疑問を原動力に、多様な外交パイプを築こうとシンクタンク「新外交イニシアティブ」を設立した。以降、名護市長の訪米の企画・同行やシンポジウムの開催、米議会へのロビーイング(政治的圧力運動)等を行っている。基地に無関心な米議員には環境や女性、アジアなど別のテーマで働き掛けて共感の輪を広げる。16年度米国防権限法から「辺野古が唯一の選択肢」の条文が取り除かれたのは、そうした成果の一つである。
先の米大統領選では既存政治にとらわれないトランプ氏が当選した。この機に沖縄がどう戦略的に行動を起こすか、その手引となってくれる一冊である。
(与那嶺路代・元琉球新報ワシントン特派員)
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さるた・さよ 1977年、東京都生まれ。早稲田大法学部卒。日本と米ニューヨーク州で弁護士。米アメリカン大で国際紛争解決を学び、2013年に「新外交イニシアティブ」を設立、事務局長を務める。
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