『琉楽百控』 琉球古典音楽の骨格提示


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『琉楽百控』ロビン・トンプソン著 榕樹書林・6264円

 本書は五線譜を使った琉球古典音楽の楽譜集であるが、三線譜を上段に歌唱部を下段に配置し、そこに歌詞および曲の音楽解析などが丁寧に説明されている楽譜集で、従来の「五線譜工工四」とは似て非なるものである。三線譜を上段に、歌唱部を下段に採譜してあるのは、著者の言葉を借りれば、「琉球古典音楽の場合、基本旋律は三線のパートにあり、歌はその旋律を修飾する形で展開する」という論理に基づいたもので、ヘテロフォニックな音楽構造を持つ琉球古典音楽の骨格は確かにこの配置の方がわかりやすい。

 18世紀末にまとめられた琉歌集『琉歌百控』の構成に倣って、古典の代表楽曲100曲を二十段に分けて構成しているが、選択された楽曲は主に野村流工工四の上巻と中巻から全曲と下巻と「拾遺」からの一部である。関連性のある5節(4節および6節もある)を一組にまとめて一段とし、御前風5節が初段、昔節5節が十段に、大昔節5節は十一段に配置している。その他「本花風節」、「花風節」、「赤田花風節」(2曲)、「稲まづん節」が七段に、4曲の「こはでさ節」(赤さ~、踊~、宮城~、屋慶名~)が八段にまとめられていて、それぞれの曲の類似性や関連性が解析されている。

 各曲の楽譜の下には日本語の歌詞、ローマ字表記、英訳、そして楽曲分析がなされている。楽曲分析は歌持ち、拍節構造、反復のあり方、全体的な音楽構造などを解明し、私たちに古典音楽の骨格を提示してくれる。著者はイギリス生まれ。ロンドン王立音楽アカデミーを卒業後、1975年に来日して東京芸術大学大学院で日本の伝統音楽を研究した。82年から琉球古典音楽の研究に取り組み、沖縄タイムス伝統芸能選考会の三線、箏曲、胡弓の3部門でグランプリを受賞し、野村流保存会の師範免許(三線と胡弓)も持っている実演家である。この著書は立派な理論書であるが、トンプソン氏は普遍的な価値を持つ音楽としての琉球古典音楽を、世界に普及させたいという思いから今回の楽譜出版にこぎつけたという。(比嘉悦子・民族音楽研究家)

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 Robin Thompson 1950年ロンドン生まれ、那覇市在住。王立音楽アカデミー、ロンドン大学東洋学部卒。東京芸術大大学院修士課程修了。琉球大や県立芸大非常勤講師を歴任。83年から人間国宝の城間徳太郎氏に師事し琉球古典音楽を学ぶ。

※注:城間徳太郎氏の「徳」は「心」の上に「一」

琉楽百控
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