『沖縄02 アメリカの夜』 基地外に浸潤する光景


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『沖縄02 アメリカの夜』岡本尚文著 ライフ・ゴーズ・オン・2160円

 この、沖縄本島のアメリカナイズされた光景を切り取った写真集は、夜間に撮影され、その何よりの特徴は、ほとんど人が写っていないということだ。

 20世紀初頭ぐらいまでの風景写真には、人が写っていないことが多いが、これは当時のカメラが、長時間の露光を行わないと、鮮明な像を得ることができなかったことに由来しており、立ち止まっている人は別としても、街路を歩いている人々の姿は、そこに写り込むことがなかったのだ。例えば、20世紀前後に活動したフランスの伝説的写真師であったウジェーヌ・アジェの写真には、そんな風景写真が多くあるのだが、1930年代に思想家のヴァルター・ベンヤミンは、その無人の光景を指して、「犯行現場」と比喩的に表現した。もちろんそれはあくまで比喩であり、アジェがカメラを向けた先は、犯行現場でもなんでもなかったのだが。

 岡本尚文は、夜間の人工光を強調するためか、やはり長時間露光を使用して、沖縄本島の光景を撮影する。無論これもまた、「犯行現場」であるかのような含みを持たせるためではなく、端的にある特性を光景から抽出するための手段であるように思う。岡本が抽出する光景とは、アメリカ化が基地の外へと浸潤していき、それが戦後長きにわたって構成してきた「都市の骨格」とでもいうべきものであろう。沖縄に住んでいる私たちは、そのような光景を普段意識しているわけではなく、岡本の作品は、その意識せざる光景を浮き彫りにしてくれる。そこから理解できることは、近代的な都市風景の貧しさであり、一方では「復帰」前の米兵が町へ繰り出していた「過去」の歴史の堆積である。

 このような光景を目の当たりにして、それを米軍のせい、日本政府のせいであると批判するのは容易だ。しかし、仮に将来、沖縄から米軍基地が全面的に撤去されるとして、岡本が捉えた貧しい風景よりも、豊かな光景を我々はつかむことができるのか。岡本が撮影しているのはおおむね「現在」であるといっていいだろうが、その作品が投げ掛けている宛先は、未来である。
 (土屋誠一・美術批評家、県立芸術大学准教授)

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 おかもと・なおぶみ 1962年東京都出身。和光大人文学部芸術学科、東京総合写真専門学校卒。78年以来東京と沖縄を往復し、2008年に「沖縄01 外人住宅」を発行。

岡本尚文写真集『沖縄02 アメリカの夜 A NIGHT IN AMERICA』
岡本 尚文
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