『世界のオーケストラ(2)』 前人未到のドキュメント


社会
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『世界のオーケストラ(2) 上・下』上地隆裕著 芸術現代社・各2160円

 突然こういう怪物的書籍が現れる。

 私が最初に手に取ったのはシリーズ第1巻の「北米・中米・南米編」だった。

 私はフォートワース交響楽団という日本の誰も知らないであろう超マイナー・オケが好きなのだが、さすがにこの無名のオケは載ってないだろうとページをめくったところ…このオケのために5ページを費やしているではないか! 一体どこでこれだけの情報を集めてきたのか! ここまで詳細なオーケストラ紹介本というのは他に類を見ない。

 続編として「ヨーロッパ編」が出るかもしれないと聞いたときは、そうなればいいとは思ったがそれは難しいだろうと思った。あの「アメリカ編」の水準の高さで、ヨーロッパの膨大なオーケストラをひとつひとつ解説するのはおそらく不可能…。そう思っていたのに、いきなり出てきてしまったのである。

 「ヨーロッパ編」。なんと上・下2巻。扱いオーケストラ数、実に120団体。内容の濃さは「アメリカ編」以上! 今回のシリーズの詳細さ、そして規模はまさに前人未到。長年の経過観察と、おそらくは現地での実地調査、そして多くの私財を投入しての鑑賞によって編み出されたドキュメント。いや、ドラマ。

 オーケストラ紹介本を読んで感動することなどありえないと思うだろうが、たとえば「ヨーロッパ編」上巻のフランス国立パリ管弦楽団の項を読んでみるといい。話は中国監視船の話にまで及び、筆者は「平和無くしてClassical音楽なし…」と熱く叫ぶ。

 それはオーケストラへの熱い愛情、そして平和への熱い希望を抱く筆者の心の声が吐露された瞬間。こういう熱い思いを胸に秘めた男が長い人生をかけて書き上げたのが、この渾身(こんしん)のシリーズなわけである。

 あえて言わせてもらおう。オーケストラ・ファンであれば、この本は持っておいたほうがいい。いや、もっておかなければならない。

 (松本大輔・アリアCD代表)

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 うえち・たかひろ 1948年宮古島市(旧城辺町)生まれ。琉球大学法文学部卒、メリーランド大学教育学部大学院修士課程修了。長年勤めた教職を退いた後は、フリーの音楽ジャーナリスト、小説家として活動している。

世界のオーケストラ(2)上 ~パン・ヨーロピアン編~
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