児童施設の後輩に贈る希望の桜


この記事を書いた人 志良堂 仁
沖縄大学への合格を記念した桜を児童養護施設なごみに植樹した山城謙人さん(左)と、兄のような存在の指導員・仲座豊さん=10日、名護市辺野古のなごみ

 名護市の児童養護施設「なごみ」出身者で初めて4年制大学への進学が決まった山城謙人さん(26)が10日、合格を記念し、施設の敷地に桜の木を植樹した。桜の木を贈ったのは山城さんが勤務していた「わかば種苗店」(那覇市)の社長、照屋幸勇さん(58)。一人一人の可能性を信じる気持ちを込め「希望の桜」と名付けた。山城さんは「なごみを巣立った仲間たちがきょうだいのように、桜の下に集まれたらいい」と願いを込めた。

 山城さんは父親の暴力などが原因で実親の元で暮らせず、小学3年から高校卒業までなごみで育った。高校卒業後、5年間働き、専門学校を経て4月から沖縄大学の3年次に編入する。社会福祉を専攻し、社会福祉士の資格取得を目指す。「児童相談所の職員になって児童虐待を防ぎたい」と力を込める。

 山城さんにとって兄のような存在の指導員、仲座豊さんは「子どもたちを大切に思う気持ちがうれしい」と目を細める。「働きながらの通学になるので厳しいと思うが、乗り越えてほしい」とエールを送った。なごみで暮らす高校1年の男子生徒(16)は「花が咲いたら、桜祭りに行ったような気分になれると思う」と開花を心待ちにした。

「子どもたちのため」奮起

 山城さんにとって、那覇市内で「わかば種苗店」を営む照屋幸勇さんと、幼稚園以来親しい付き合いを続ける息子の清司さん(26)の存在は大きかった。幸勇さんの勧めで高校卒業後、山城さんは同種苗店に就職した。その後の専門学校への進学など、照屋さん一家が山城さんの一歩を見守ってくれた。

 「なごみ」に入所しても長期休暇中、照屋さん宅に滞在し、家族のような関係を育んできた。幸勇さんは幼少の頃、酒を飲んだ父親に家を追い出され、軒下で寝たことがあり、自身の体験が山城さんと重なった。

 社会人5年目に入った年、山城さんは幸勇さんに退職を申し入れ、2015年に福祉分野の専門学校に入学した。「なごみ」を巣立った後、人間関係に悩んだり、心を病んだりする仲間の姿に心を痛め、福祉の道へ進みたい気持ちが芽生えていた。幸勇さんは「四男を手放すようでショックだった」というが「夢を持っている若者を手元に置いておくわけにいかない」と背中を押した。

 専門学校で受験資格が得られるのは介護福祉士。子どもの貧困が社会問題として注目され、報道に接する機会が増えた。そのたび山城さんは父親の暴力におびえた幼少時代を思い出すようになった。「照屋さん一家との出会いに恵まれた自分だからこそ、できることはないか」と考え始めた。

 転機は昨年5月、子どもの貧困をテーマにしたシンポジウムにパネリストとして登壇した経験だった。他のパネリストの話から厳しい環境下にある子どもたちの様子を聞き「子どもたちのために頑張ろう」と決意を固めた。児童福祉施設で働ける社会福祉士の受験資格を得るため沖縄大学を受験した。

 合格が決まったものの、これからの道のりは平たんではない。高校を既卒のため、児童養護施設出身者などを対象にした県内の奨学生制度や、給付型奨学金の対象外となる。昼間に通学しながら夜間働く生活が待っている。それでも「絶対に諦めない」と気を引き締める。

 「いつも謙人のパワーに触発されている」と清司さん。山城さんは「さまざまな事情から学校へ通えない子どもたちが学べる学校を造りたい」とさらなる目標を描いている。(高江洲洋子)