「はいたいコラム」 生産者とは与える人


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! すき焼きは好きですか? 群馬県で講演の機会を頂き、高崎へ行ってきました。駅に下り立つと、構内にすき焼きの映像が流れています。群馬県は「すき焼き自給率100%」の県なのです。

 EUへの輸出が国内で一番早かった「上州和牛」をはじめ、全国的に有名な「下仁田ネギ」、生産量全国1位の「こんにゃく」、全国3位の「春菊」、全国4位の「生シイタケ」など、すき焼きに必要な全ての食材がそろいます。みんな大好きなすき焼きが自給できるなんて素晴らしい~。高級感漂うすき焼きもよし、薄切り牛肉を一枚一枚大事に大事に家族みんなでつつく家庭的なすき焼きも楽しいじゃないですか~。SUKIYAKI SONGは世界中に知られていますしね。

 世界遺産の「和食」はいまや世界中に広まっていますが、「和食」の神髄は単に「日本食」という意味にはとどまりません。「和」は英語でharmony。調和、和合、和やか、和音、平和の「和」なのです。みんなで仲良く合わさることで、より深い味を生み出す。牛(肉)、こんにゃく、ネギ、春菊、シイタケ、その食材と生産者が互いに友達のように助け合うことでおいしさが生まれます。どれ一つ欠けても「すき焼き」は完成しないのです。

 農業の付加価値、いわゆる6次産業化を考えるとき、牛肉だけを加工販売するより、ネギやこんにゃくと一緒に「食文化」や「地域文化」を丸ごと売るパッケージ戦略が求められています。

 そんな講演をした夜のことです。前橋市で40年続く宮城種豚センター3代目の小堀長久さん(34)の言葉に私はハッとしました。

 「農業の価値を上げたいのは分かるけれど、じいちゃんが食料難の時代に、人々の栄養源として養豚を始めたことを思うと、うちの豚は高く売りたくない。おいしくする努力は続けるけれども、うちの豚肉は安くいっぱい食べてもらいたいんだ」と言うのでした。

 飼料米を使い、味や品質に人一倍こだわる宮城種豚センターの社是は「消費者を幸せにできる豚肉を追求する」こと。食や農業の価値がどれだけ変わっても、人は食べなければ命をつなげません。農業も利益は上げないと続けられませんが、生産者とは、与える人であり、恵む人です。その言葉には重みがありました。

 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)