「はいたいコラム」 地域を丸ごと売る


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 島んちゅの皆さん、はいたい~! 能登半島へ行ってきました。能登の里山里海は2011年、FAO(国連食糧農業機関)によって「世界農業遺産」に認定されました。急斜面の棚田や海岸で食料を作りだす工夫や農法が、未来へ受け継ぐべき人類の知恵だと評価されたのです。

 私は石川テレビ出身で、アナウンサー時代に能登の棚田オーナーになって米づくりを体験取材したことがきっかけで、農業と農村問題をライフワークにするようになりました。そうした思い入れのある能登から、能登米生産者大会の講演に招いていただいたのでした。

 まず感動したのは、優良生産者の表彰式です。地域の中核的農家として、奥能登農林総合事務所長賞を受けた梅下英治さん(JAおおぞら)は、長靴とジーンズ姿で登壇されました。生産者の正装とは、誰が何といっても田んぼでの作業服ですよね。精悍(せいかん)な姿は思わず写真を撮りたくなるほどかっこよく、梅下さんが能登米生産に誇りを持っておられることが、しみじみと伝わってきました。

 世界農業遺産の登録を機に、能登の躍進は始まりました。地域一丸となって「環境保全をテーマとした良質な米づくり」にシフトしたのです。化学肥料や農薬を減らしたエコ栽培による「能登米」のブランド化として、田んぼの生物多様性を重視した生きもの調査、農業機械のアイドリングストップからかかしの設置まで、昔ながらの里山風景丸ごと復活に乗り出したのです。取りまとめたのは、能登地域にある七つのJAと全農石川です。環境に優しい田んぼと能登米の活動はどんどん広まり、本年度は3600人の生産者が5千ヘクタールで1万4千トンの能登米を出荷しました。

 地域を丸ごと売ろうという姿勢が、これからは農業にも、地域活性化においても欠かせません。「能登米」の生産・消費拡大のためには、人が集まり、にぎわい、能登全体が元気になる田んぼが理想です。

 そんな私の講演の後、県農林事務所の永畠秀樹さんが「これからは能登米を売るがやない。能登を売りに行くんやぞ」と話したのを聞いて私はうれしくなりました。何しろ国連が認めた能登の里山里海は、人の心をひき付ける景観であるのは間違いありません。加えて能登半島はエコ半島になろうとしています。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

・・・・・・・・・・・・・・・・

小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)