【島人の目】桜


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 私が会員となっている「日本エッセイスト・クラブ」で年4回発行している「会報」の2016年「秋」号が届いた。第64回クラブ賞受賞作の発表が主題だ。受賞作は阿部菜穂子氏(ジャーナリスト)の「チェリー・イングラム―日本の桜を救ったイギリス人」、温又柔氏(作家)の「台湾生まれ、日本語育ち」、原彬久氏(東京国際大学名誉教授・法学博士)の「戦後政治の証言者たち―オーラル・ヒストリーを往く」の3作品である。

 私がここで取り上げたいのが阿部氏の「イギリスの桜」についてである。日本の桜をイギリスに紹介したのはコリングウッド・イングラム(1880~1981)であったと本の中で記述されている。イングラムさんは明治、大正時代の日本を3度訪れ、桜を持ち帰ってケント州の自宅の庭に植え、桜に関するたくさんの記事や本、写真、スケッチ、メモ、桜関係者への手紙など膨大な資料を残した。

 阿部さんは現在イギリス在住でイギリスの桜を数多く見てきている。それによると日本では、3月のある時期に、“染井吉野(そめいよしの)”がいっせいに咲いて街をピンク色に染めた後、花はあっという間に散ってしまうが、イギリスの桜は庭園や住宅街、個人の庭など、いたるところでそれぞれ勝手な時期に、色も形も異なる花を咲かせ、「しぶとくいつまでも咲いている印象だ」と説明している。

 アメリカではワシントンのポトマック・リバー沿いの桜が特に有名で、私も2度ほどその地を訪れた。最近では南カリフォルニアでも桜が花を咲かせるようになり、2月下旬から3月の中旬まで桜見物が可能になった。リトル東京や公園でボランティアらの努力が実り、その美しい花をめでることができる。

 私が住む街ロサンゼルス東部のチノヒルズから20分のところに、ハシエンダハイツのシャバラム公園に植えられた桜が訪問者の目を引く。同公園には約100本の桜が植えられているが、近くの中国系開業医が、2000年にハーバード大学を卒業し03年に25歳の若さで前途有望な息子が不慮の死を遂げた記念碑建立と共に植樹したストーリーが涙を誘う。同公園は水戸の偕楽園と姉妹公園を提携、梅の木が250本ほど植えられており、2月初旬に紅白ピンクが香り高く咲き誇った。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)