『見張塔からずっと』 不条理な非難に抗う術


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『見張塔からずっと』山田健太著 田畑書店・2484円

 沖縄で暮らしていると、さまざまな場面で、この国の為政者が戦争前夜の危険な方向へ大きく舵を切っていることを痛感する。恐ろしいのは、公権力を行使する者とデマ拡散常習犯として知られるネット右翼(一部は自民の補完勢力の右翼政党に属していたりする)やネトウヨ的エセ文化人らが境目もなく一体化して、「沖縄の民意」を貶(おとし)める動きを強めていることだ。

 沖縄地元紙に対する「偏向報道」のレッテル貼りも、象徴的な出来事だ。為政者や同調者による沖縄バッシングの根底に横たわっているのは、例えば「辺野古新基地建設の是非」を問うあらゆる選挙で「新基地NO!」の真っ当な民意が明確に示されたことへの不満、あるいは、まつろわぬ民への不快感である。

 このような時代に、ヤマトの側の良識ある研究者・ジャーナリストらが「沖縄の民意」を正確に伝える働きは非常に重要なのだが、沖縄地元紙に盛んに論考を寄せても、全国の人がいったいどれだけ読んでくれているかは、正直なところ常に心配な点である。その意味では、言論の状況やジャーナリズムに詳しく、大学では「沖縄ジャーナリズム論」という授業も担当している山田健太専修大教授が琉球新報に8年間連載してきた「メディア時評」を一つに収める本書を上梓した価値は、とても大きい。

 論点は多岐にわたっているが、著者の視座を表す代表的な文章としては、2011年11月、「犯す前に犯すと言いますか」の「沖縄防衛局長・オフレコ暴言」をあえて報道した琉球新報の姿勢を、〈市民の知る権利に応えたものとして、評価されるべきもの〉と支持した論考があげられる。

 これに限らず本書には、為政者が危険な領域に踏み込み、メディアがそれを支えている状況に対して、我々が抗う術を考えるヒントが散りばめられている。個人の自由よりも国家の都合を優先させようと企む者たちが跋扈(ばっこ)する時代。まつろわぬ沖縄県民と全国の支援者が危機感を共有するための格好のテキストの一つである。

(渡瀬夏彦・ノンフィクションライター)

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 やまだ・けんた 1959年、京都生まれ。専修大学人文・ジャーナリズム学科教授。日本ペンクラブ常務理事・言論表現委員会委員長など。琉球新報で「メディア時評」を連載中。

見張塔からずっと 政権とメディアの8年
山田健太
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