【島人の目】オランダ「欧州の良心」示す


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 英国のEU離脱決定、米トランプ大統領誕生、伊国民投票に続いて、欧州のポピュリズム(大衆迎合主義)がさらに勢いを増すきっかけになるのではと懸念されたオランダの下院選が先日実施された。同選挙では、オランダのトランプとも呼ばれるヘルト・ウィルダース党首が率いる極右の自由党の獲得議席が事前予測ほどには伸びず、敗北とみなされる第2党にとどまった。

 人口約1700万人のオランダは、17世紀にスペインから独立して以後、カトリックとプロテスタント、さらにはユダヤ教徒などが混在・共存する国になった。異なる宗教と人々が共に住まう国家は必然的に寛容の精神を獲得したが、国土が狭く貧しい同国は、世界中の国々との貿易によって生存を確保しなければならない事情もあった。オランダは貿易立国という実利目的を達成するために自由と寛容を国是とし、移民も次々に受け入れて多文化社会を築いてきた。

 第2次大戦後には旧植民地のインドネシアから、また経済成長が進んだ60年代以降は、労働力として中東や北アフリカなどからの移民も受け入れ、EU(欧州連合)が拡大した2004年以降は、東欧諸国からの移民も多く受け入れた。移民受容と多文化主義を育んできた「大寛容」の国がオランダである。そのオランダで、反イスラムや反移民、さらにはEU離脱までを叫ぶ勢力が台頭するのは驚くべき現象だ。

 今回の選挙では極右の躍進はとりあえず抑えられた。しかし、続いてやって来る4月のフランス大統領選や9月のドイツ総選挙で、不寛容と差別を是とするトランプ主義が欧州を席巻する可能性は依然として消えていない。

 オランダ同様に「欧州の良心」がトランプ主義に打ち勝つことを祈りたい。
(仲宗根雅則 イタリア在、TVディレテクター)