目指すは世界王者 女子プロボクサー・池本夢実


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ミット打ちで左右を繰り出す池本夢実=5日、宜野湾市の琉球ジム(大城直也撮影)

 「おしおしっ」。ミットをたたくたびに、気合の掛け声が出る。宜野湾市愛知の琉球ボクシングジムでは毎晩、女子フライ級の池本夢実(20)=静岡県川根本町出身、琉球大学教育学部3年=が拳を磨く。プロデビューから1年で3戦3勝。南アルプスを望む山あいに育ち、へき地教師になる夢を抱き琉大に進学した後にボクシングに出合った。幼少から始める競技者が多い中、18歳で一から始め、持ち前の闘争心を前面にめきめき成長する。国内女子ランク入り、日本と世界王座の獲得が目標だ。(石井恭子)

■実戦で成長
 仲井眞重春チーフトレーナー(31)を主なスパーリングパートナーに「周囲に女子がほとんどいない」(池本)ため、実戦で成長を重ねる右ファイターだ。「ただ手を振り回して」判定勝利したというデビュー戦を経て、2016年9月の2戦目は、初めての東京・後楽園ホールで石井愛世(高崎)との対戦だった。

琉球拳闘伝での3戦目で闘志前面に戦う池本夢実(右)=2日、嘉手納町のネーブルカデナアリーナ

 「アウェーで判定勝ちはない。下がったら負ける」(重春チーフトレーナー)。ファイター同士で近距離から組み合う連打戦となり、判定で辛勝した。「日本の女子レベルが全く分からなかったので、ここで勝てたのは大きい」。力だけでなく足を使いながら柔らかく交わし、相手の力を使う技術を知った。

 プロ第3戦は2日の琉球拳闘伝(ネーブルカデナ)で、初めて海外勢のサイトーンジム(タイ)と顔を合わせた。「やったことのない」のらりくらりのスタイルに苦しんだ末に判定勝ち。初KOを狙ったがうまく狙えず「(試合に)出るたびに新しい課題がある」とうれしそうに苦笑する。

 この試合では競技を始めた時から「やばい」ぐらいに応援してくれる母祐子さん(54)が初めてセコンドに立った。

 試合後は得意の右ストレートを生かしつつ、単発に終わらずに左ボディーを繰り出す必要性も痛感した。

■ここしかない

 生まれ育った静岡県川根本町の実家はSLで有名な大井川鐵道(てつどう)終点の千頭駅からさらに奥。5歳から町の道場で空手を始め、常葉学園菊川高2年生の時、全国高校錬成大会桃太郎杯で組手個人3位に入賞した。

 2年前、へき地の理科教師を目指して琉大に進学した。格闘技に関心があり、インターネットでボクシングジムを探し、幼い頃通った空手道場に「似ている。ここしかない」と直感で琉球ジムを選んだ。家庭的な環境の中に、妥協のない厳しさがあったという。

 ジムにはライト級全日本新人王の小田翔夢もおり、夕方からが活気づく。5日午後7時から池本はストレッチ、シャドー3分×5本、サンドバッグ、ミット打ち3分×4本などを約2時間こなした。この日は、練習後の午後11時から朝までアルバイトの強行軍。「だいたい、ついてこられずに辞めるが、耐えてついてくる。普通の精神力じゃない」(重春チーフトレーナー)と話す。

■「琉大で記者会見」

 今年はJBC(日本ボクシングコミッション)の国内女子ランキングが新設され、さらに5月から沖縄に引っ越す前WBC世界ミニフライ級王者の安藤麻里も指導に加わる。重春チーフトレーナーとの夢は、国内のみならず世界タイトルを取って「琉大で記者会見を開くこと」だ。そして故郷の製茶企業をスポンサーに付け、自分たちを“チーム・カテキン(勝って金)”と銘打ちたいという。

 夢は、もう一つ。修練の先に「人間的に強く、信頼される」存在になりたいと誓う

 「こんな真面目な子いないよ」と練習を見ていた仲井眞元子プロモーター(64)は言う。「卒業するまでに、必ず世界チャンピオンにする」。はちきれそうな期待と夢を、鍛えた両腕に抱え、池本はさらに強くなる。