『沖縄思想のラディックス』 「非暴力」への知恵と尊厳


社会
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『沖縄思想のラディックス』仲宗根勇・仲里効編 未來社・2376円

 1945年以後、米国の軍事戦略における「太平洋のキー・ストーン(要石)」とされ軍事基地化される「沖縄」の時間が止まらない。近代戦争による国土の焦土化を未経験な米国は、近年の対アジア新国防戦略において対話から力を重視する関与政策転換を鮮明にしている。その世界規模の百戦錬磨の経験は、対話可能な知恵を熟成するには至っていない。ある意味で回帰的な発想に頼る軍事構想「エア・シー・バトル」(日本も追従)の展開は、新戦略ラインを描きながら旧態依然とした役割を沖縄に強いる。

 海や空や島地の“いま”を巡るリアルな不条理に対して思念の言葉は必然的にあふれ続ける。「Key」は、問題の「解決の鍵・解答書」の意味を持つ言葉でもある。

 島嶼(とうしょ)社会の沖縄は、前者とは異なる位相で独自の「Key」を多分に有しており、アジアにおける幕なしの実践の歴史も古い。それゆえ修練の感応性も多面的である。権威へ盲目的追随をすることなく、島嶼の暮らしと長き歴史・特に戦争の苦い経験からの知恵とRadix(根源)の尊厳を支えに、時代状況に応じて自らが描く「希望」へと主体的に実践を重ねてきた。その理念こそ「沖縄思想」である。ラディックスの尊厳は、「非暴力」への哲学であり沖縄の「Key」である。

 世界の人々が困惑し不安を持つ現在の〈暴力〉の状況へ、普遍性を帯び共有可能な沖縄からの言葉として本著は編まれた。

 収録された6人の論考(八重洋一郎「南西諸島防衛構想とは何か」、桃原一彦「『沖縄/大和』という境界」、宮平真弥「ヘイトスピーチ解消法と沖縄人差別」、仲宗根勇は辺野古問題と新たな民衆運動の可能性を三論考にまとめ、仲里効は真喜志勉や高嶺剛、目取真俊らの作品を貫く「Key」を紐解(ひもと)き、川満信一は「島の根と思想の根」のあり様を示す)は、2015~17年の沖縄状況で書かれた。テーマや言葉の響きや論法は多様だが、通底する尊厳からの発露である。

 沖縄の現状と沖縄思想の飛沫は、読者を揺らし胸の泉に沁(し)み入り、そして風に融(と)け流れ、世界の乾いた不安に共振し潤いを届けるだろう。

(粟国恭子・大学非常勤講師)

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 なかそね・いさむ 1941年、うるま市生まれ。東京大学卒。元裁判官、評論家。

 なかざと・いさお 1947年、南大東島生まれ。法政大学卒。雑誌「EDGE」編集長を経て、映像・文化批評家。

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