『ウプシ 大神島生活誌』 過去との対話に強い思い


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『ウプシ 大神島生活誌』ウプシ大神島生活誌編集委員会 大神自治会・1000円

 大神島は秘祭・ウヤガンの島として有名な宮古の離島で、ウプシとは、かつて船が島に戻る際の目印となった大神漁港近くにある大岩の通称である。島の人々がウヤガンの取材をかたくなに拒絶してきた事実があり、その影響もあって、島の暮らしについての記録もほとんど残されてこなかった。

 本書は大神島の歴史や暮らしに関する初めての本格的な記録であり、「概況」「衣食住」「産業」「人生儀礼」「祭祀」「歴史」「ことば・うた」の7章が柱となって構成される。さまざまな要素が盛り込まれたウヤガン祭祀の複雑で豊富な内容構成、死者儀礼としての洗骨がなかったことなど、評者の関心を引いた記述は枚挙にいとまがないが、かの有名なパーントゥ祭祀が大神島でも行われていたという事実も、本書で始めて知ることができた。

 1960年頃は245人だった島の人口が、現在は19戸、30人だという事実には衝撃を受けたが、本書の誕生はそのような島の過疎化現象と関わりがある。

 本書の編集委員長は島出身で島のリーダーでもある大浦高儀氏で、氏以外に島外の人間である下地恵子氏(ライター)、仲間恵子氏(大学非常勤講師)、比嘉豊光氏(写真家)の3人が本書の刊行に関わっている。

 伝統的な島の暮らしや祭祀(さいし)、島言葉などの消滅を危惧した彼らは、5年ほど前から月1度のペースで島に通い古老たちからの聞き取り調査を行ってきた。その成果を島へ返したいという彼らの熱意と、島の生活誌を残したいという地元の意向が合致して、本書が誕生したことになる。

 本書の刊行によって、島の先人たちの大いなる人生の記録ともいえる神行事や暮らしのありさまが、消滅する瀬戸際で救出されたといってよいだろう。本書刊行に尽力した先述の大浦氏は、本書が島民の心を動かす何らかの力になってほしいと記している。氏の言で明言はされてないが、困難な状況の中で島の未来を展望するためには、本書を通しての島の過去との対話が重要な意義を持つはずだ、という氏の強い思いを評者は感じた。(赤嶺政信・琉球大学教授)

※注:大浦高儀氏の「高」は旧字体