『やんばる学入門』 暮らしと密接な里山知る


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やんばる学入門―沖縄島・森の生き物と人々の暮らし

『やんばる学入門』盛口満、宮城邦昌著 木魂社・1944円

 書名が示しているように、やんばるの生き物と人々の暮らしについての内容がいっぱい詰まっている。6章構成で1章から4章まではやんばるの自然と生き物に関する説明である。やんばるの範囲は、かつて金武以北を「チンヤンバル」と称していたことに留意しておこう。南日本から東南アジアに広がる照葉樹林地帯の森林にあるやんばるは、イタジイを中心にした森である。

 著者・生物学者の盛口満さんは、やんばるの生き物を詳しく取り上げ、カエルやマガメやハブに代表される両生類について詳細に述べている。ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、アカヒゲなどについても同様に説明する。もう1人の著者の宮城邦昌さんは、生き物と生活の関わりをこと細かく記述している。実に多様な生物がやんばるにいる実態を知ると、やんばる育ちでも全く見聞したことのない記載に驚かされる。

 終章の6章は人々の暮らしと自然の内容が描かれ国頭村奥出身の宮城さんの育ちが明らかとなる。また、ここでやんばるの人々の空間認識が明らかになる。里山あるいは海域では「里海」というイメージでとらえられるが、ここではやんばるの山地は全て「里山」ととらえることが可能となろう。

 人々と里山との関わりは極めて密接だ。具体的な生活の場があるからだ。水田・畑がある。畑仕事がある。猪の猟があり猟師がいる。だが、猟師はまれだ。人々は農耕のために猪垣を構築し、その管理を行った。畑には多様な作物が植えられている。

 王国時代に国頭地方はサトウキビ栽培が禁止され、山林資源の生産が盛んとなった。サトウキビに代わりウコンの生産が強要された。広く食されているたくあんは、ウコンの色であることを想起されたい。

 本著コラムの「ソーガチワーと正月豚」に至ると半世紀前の正月風景をほうふつとさせる。子どもと密接な関係を持つのはヤギだろう。男の子たちは家庭のタンパク供給源としてヤギの飼育を任された。邦昌さんは言う。ヤギの最高のごちそうは「アンマチィチィ(イヌワビ)」だと自信を持って言う。草を投げるといち早くアンマチィチィをうまそうにガスガス食べる。ヤギのあの草のかみ音が聞こえてくるようだ。

 (島袋伸三・琉球大学名誉教授)

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 もりぐち・みつる 1962年千葉県生まれ。エッセイスト、イラストレーター。沖縄大学こども文化学科教授。

 みやぎ・くにまさ 1948年沖縄県生まれ。元気象庁職員。やんばる学研究会会員。