沖縄の貧困に関する「物語」 恣意的な統計の引用で劣位強調 【貧困雇用 沖縄経済を読み解く(13)】


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 連載の冒頭に述べた「沖縄は全国一貧困だが貧富の差も激しく、労働分配率も低く、長時間労働のわりに生産性も低い。それは、沖縄は全国に比べ、オーナー企業が多く、マネジメント能力も弱く、成長意欲もなく、しかも身内の親族で利益を独占して、労働者を苦しめており、従業員も全国と比べ長時間労働で、給与の低さに甘んじてほどほどでいいといった働き方をしているからだ」というストーリーは事実だったでしょうか。連載の中で見てきた通り各種統計などから、その印象はだいぶ違ってきたと思います。

 沖縄は貧富の差が激しい二極化した社会だということも、オーナー企業が多いというのも事実ではありませんでした。また、労働分配率も全国と差はなく、沖縄は搾取社会であるという事実もありませんでした。そして労働生産性をどう高めていくかという課題が見えてきました。

 もちろん、実感と違うという方もいるでしょう。そして沖縄にもブラック企業といわれるような劣悪な雇用環境の企業があるのも事実で、それは徹底的に批判すべきです。しかし、それを一般化し、それが沖縄の貧困の原因であるかのような提示の仕方は公正ではありません。

 企業に雇用環境の改善を求めるプレッシャーをかけることは必要ですが印象論や恣意的な統計の引用による劣位性の強調によって行うべきではありません。

 米国の大学で公共政策、経済学を教えるチャールズ・ウィーラン氏は「統計学は数学に根ざした分野で、数学は厳密だが、複雑な現象を説明するための統計学の利用は真実を覆い隠す余地をたっぷり残してしまう。われわれが関心を寄せる現象のほとんどは、複数の方法で記述できる。例えば『この人は性格がいい』という記述と、『この人は証券詐欺で有罪』という記述が同じ人間についてのものであった場合のように、選んだ(あるいは選ばなかった)記述統計が、印象に大きな影響や、正当性を欠く結論の論拠に使ってしまえる」旨を述べています。

 沖縄県民のうち確定申告をした人だけを分母として年収1千万円以上の所得を得ている人の人口比は全国10位という統計のみの引用がまさにそうです。労働時間なども単年度だけの比較では、それが上昇傾向にあるのか下降傾向にあるのかも分かりません。

 また、沖縄経済を論じる際に比較の指標としてよく用いられてきたのが全国平均ですが、「沖縄は財政依存度が36%と全国平均の2倍」「1人当たりの県民所得・総生産額等のマクロ経済指標はおおむね全国平均の7割程度」などの表現がよく使われます。もちろん低所得や財政依存を改善することは必要ですが、経済学者の宮城和宏氏や財政学者の池宮城秀正氏が指摘しているように、1人当たり所得や自主財源比率が全国水準以上の都道府県は「十数弱の都道府県」にすぎないのであり、全国の平均値との比較で沖縄が下回っているというだけでは、劣位性のみを強調することになりかねず、相対的な位置付けを見誤る恐れがあります。

 沖縄の貧困の問題は深刻で、喫緊の対応が求められていることは言うまでもありませんが、米軍基地の問題と同様に、印象やイメージで「物語」を作り、恣意的な統計の引用によって劣位性を強調するようなアプローチは、沖縄の実態を歪め、あたかも沖縄の社会風土や文化の問題、沖縄県民の資質や能力、意欲の問題のみに起因しているかのように矮小化され、沖縄の歴史的な背景・沖縄振興策など構造的な問題を見落とし、その解決方法を間違えてしまいます。
(安里長従、司法書士)