偏った産業構造は危険 製造業・農業に「伸びしろ」【貧困雇用 沖縄経済を読み解く(14)】


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 これまで多くの識者が指摘しているように、そもそも沖縄経済の環境的与件で不合理極まるものは、希少な土地資源のかなりの部分が軍事基地という非経済的用途に充てられている点です。

 また、振興策によって一定の社会資本の充実はあったものの、格差是正や経済自立にふさわしい十分な産業や経済の発展があったといえるのか。例えば、政治学者の島袋純氏が指摘しているように、高補助率は実際の負担額の10倍もの公共事業ができるので予算を極大化する方向に誘導され、教育・福祉サービスに関する予算は後回しにされてこなかったか。現在の沖縄の振興策は、第3次産業、特に観光業と情報通信産業によって組み立てられているが、産業構造として偏重しており、果たしてその弊害がないといえるのか。

 米軍基地問題を人権侵害の問題ではなく、見返りが欲しい地元の要求への政府の振興策による対応というレベルに矮小(わいしょう)化し、それが問題の本質であるかのように全国に流布し、国政レベルの争点にさせない仕組みとなってはいないか(基地問題を地域振興の問題へのすり替え・非争点化)。利益還元型・補償型政治が既得権益層や植民地エリートを増長させ、地域社会の分断、対立の激化により政治的主体性が後退し、自治の破壊、ガバナンスの腐敗をもたらしていないか。これらは沖縄の構造的な問題として、多くの県民が共有しきちんと正面から議論すべきです。

 なお、屋嘉宗彦氏が観光に関して、沖縄の独自の文化を資源にというが、迎える側が自分の生活に満足し誇りを持たなければ、表面的なものに終わる。文化は観光の手段としてではなく、本来、観光を離れた根本的な文化施策として取り組まれるべき問題であると指摘していることは重要です。

 また、製造業に関しては、沖縄の歴史的・政治的経緯を踏まえても、今後、沖縄がその市場規模、島嶼(とうしょ)性、技術的基盤などのために、大規模・大量生産の製造業の拠点にはなりえないこと、高度知識集約型・付加価値型の産業は理想で門戸を開いておくことは大事だが、一朝一夕には形成できず、誘致されて立地する企業があったとしても簡単に地元経済と有機的な関係を持つものとはならないことを指摘しています。

 この点、経済活動別の県内総生産と課税の割合(2001年から14年平均)をみると、製造業の総生産に占める割合は4・6%ですが、製造業の県税等に占める割合は24・5%と5倍以上になります。一方サービス業は総生産の25・9%を占めますが、県税等の14・9%にすぎません。技術経営修士の照屋隆司氏は、製造業の課税貢献度が高いことを示し、偏った産業構造は危険で、足腰を強くするためには、中小企業によるものづくりの産業発展は欠かせないとして「観光/食品加工(製造)/農業」の連携を強化することを指摘しています。

 また、沖縄の中小企業が、個性的で優れた商品をたくさん作っている事例を紹介し、キーワードとして「模倣困難性」「地域密着」「全員参加型」を挙げています。そして、現在は産業に占める製造業・農業の割合は小さいけれども、逆に、これから沖縄に合った製造業・農業の振興を行えば、ぐっと伸びていく「伸びしろ」があるとその拡張性を述べています。このようなポジティブな議論をより広く喚起していくことがとても大切だと思います。
(安里長従、司法書士)