『島嶼学への誘い』 内発的発展の道筋問う


社会
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『島嶼学への誘い』嘉数啓著 岩波書店・3024円

 本書は、島の経済社会と発展の課題を学際的視座と開発理論の体系で整理分析し、沖縄のみならず多くの島嶼(とうしょ)地域に共通する「未来型経済社会システム」の可能性について論じている。緻密な論理展開の内容を読み解くと、自立(律)を伴った多様な内発的発展が可能であるという著者の首尾一貫した未来志向的な研究姿勢が指摘できる。

 ある経済専門誌は、1992年5月に沖縄復帰20年を記念して「自立的発展の離陸期へ」という題で、その未来像を語った著名人の対談を掲載した。しかし復帰から45年を経ても、沖縄が完全に離陸期から「テイクオフ」し、持続可能な発展の上昇気流に乗っているとはいいがたい。それは多くの小島嶼地域でも共通する課題でもある。いかにすれば内発的な発展と相互扶助を基盤とする社会システムを維持しながら高度経済社会を構築することができるであろうか。

 沖縄を含む多くの小島嶼経済で、長らく公的支出に過度に依存した結果、労働生産性の低迷と「負の貿易乗数」がもたらされたことを筆者は明らかにした。それを乗り越えるには、経済成長の「エンジン」を「公」的部門の投資から「民」間部門の投資へと移行させる知恵と壮大なパラダイムシフトが求められる。

 多くの太平洋島嶼国で観察される「生存的豊かさ」から「生存的貧困」へと陥落しつつある現状を打破するには、伝統的に蓄積されてきた社会関係資本を維持し活用しながら、「複合連携型」と「複合循環型」の発展戦略を採用すべきだと著者は主張する。グローバル化と相互補完的な思考・発想の転換を図ることで、島嶼の人的・文化的資源とバイオ資源の循環的活用を可能にする「異次元の制度設計」を提唱する。

 島嶼型持続可能発展論の構想が実現すれば、島嶼経済社会のフロントランナーである沖縄の経験が、国際公共財として世界の島嶼地域の自立的発展にも還元できるはずだ。現場を知り尽くした著者だからこそ、明るい未来の設計図を描く本書が刊行できた。沖縄で誕生した「島嶼学」の基本文献である。(上原秀樹・明星大学特別教授)

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 かかず・ひろし 1942年生まれ、本部町出身。台湾澎湖県アドバイザー、NPO法人アジア近代化研究所副代表。琉球大学名誉教授。島嶼発展に関する国際科学評議会東アジア代表、日本島嶼学会名誉会長。

島嶼学への誘い――沖縄からみる「島」の社会経済学
嘉数 啓
岩波書店
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