『写真から見る名護の沖縄戦』 同居する日常と戦争の足跡


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『写真から見る名護の沖縄戦』名護市史編さん委員会編(名護市役所・1000円)

 何気ない日常の写真に目を奪われる。一張羅を着た人々がごちそうを前に杯を掲げる、正月の一枚。隣には、地域の陸上競技大会で優勝した少年たちの集合写真…。人々の顔は晴れやかである。戦争の惨禍が、確かに近づいていたにも関(かか)わらず。

 本書は、名護市史本編・3『名護・やんばるの沖縄戦』を補完する写真記録集である。青年たちが「お国のために」と戦場に送られるようになっていった戦前期を扱う第1章、民間人収容所の写真を中心に戦中から戦後を扱う第2章、名護博物館に収蔵された戦争史料などの写真を収めた第3章からなる。戦闘そのものを写した写真はほとんどない。しかし、本書の写真からわれわれが想起できるものは実に重い。

 評者は昨年までNHK沖縄放送局に勤務し、本書編者の一人である川満彰の協力の下、少年ゲリラ部隊「護郷隊」についての番組を制作した。取材の過程で鮮烈な印象を残したのが、東村高江の国民学校の卒業旅行の集合写真だ。18人の少年少女が教師を囲んで並び、何か明るい未来を思わせる写真だった。しかし取材を進めると、写っていた少年の半数近くが、その後、護郷隊に召集され、多くが凄惨な死を遂げていたと分かった。ささやかながら懸命に歩んでいた小さな命を、巨大な暴力が奪ったという事実の重みを、写真の中の一人一人の顔は何より雄弁に訴えかけていたのだ。

 本書に収録された数々の写真にも、必ず、あの写真と同じように困難な人生の物語が潜んでいるはずであり、その一枚一枚を見つめることの意味は大きい。

 そしてもう一つ、これらの何気ない写真の中には、確かな戦争の足音も写し込まれている。教育勅語や御真影が保管されていた奉安殿、軍事教練を行う軍人の姿…。無邪気な少年少女らの日常と、そうした不穏な影とが、一枚の中で同居しているのが、この時代の写真である。

 翻って今、わが子らの笑顔は、この子らのそれと重なってはいないだろうか。そんな不安を感じさせる写真集でもある。(渡辺摩央・NHKディレクター)

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 「写真から見る名護の沖縄戦」は、名護市民や市内各区(字誌)からの提供のほか、県機関所蔵の写真資料を市史編さん係であらためて整理して掲載した。