くらし

互いに補い合い生きる 認知症ケア 涌波淳子氏に聞く

「認知症の人と家族の不安を支えるだけの社会を皆で準備していければいい」と語る涌波淳子理事長

 「日本認知症ケア学会」が5月下旬に沖縄で初開催された。大会長を務めた医師で北中城若松病院理事長の涌波淳子医師に、学会の成果や認知症の人の思いをくみ取るケアの在り方、認知症と共に生きるために、社会でどのような準備が必要か聞いた。(聞き手・新垣梨沙)

 ―認知症を取り巻く状況を教えてほしい。

 「団塊の世代が75歳以上となる2025年には、65歳以上の高齢者の5人に1人が、MCI(軽度認知障害)を含めると3人に1人が認知症を患い、国民全体の10人に1人が認知症やその予備軍と推計されている。沖縄県内では7・4人に1人、要介護者の7割が認知症といわれる。誰もが認知症の人と関わる時代になることを考えた場合、一人一人が前向きに、自分の問題として取り組んでいく必要がある」

 ―認知症にネガティブな印象を持つ人は多い。

 「事実だが、本来病はどんな病であってもしんどいもので認知症だけが特別ではない。ただ、認知症は外から苦しさが見えにくく、サポートの手が入りにくい課題があった。当事者や家族もその苦しさを語ることがなかった時代は、行動のみを捉えて困った人との扱いだった。だが、何年も前から認知症の人が不便さやつらさを話すようになったことで、段階的に『治療やケアを必要とする人』『仲間として共に生きる存在』へと変化している。認知症になった人と家族の不安を支える社会を皆で準備していければと思う」

 ―学会講演では、本人の生き方や思いをくみ取るケアが大事だと話していた。

 「目で見える現象としては同じだが、実はその人の過去や生き方によって目的が違うことがある。例えば、施設の周りを歩き回る人がいたとする。ある人は元警備員で部屋の見回りを、主婦で子どもを育てていた過去がある女性は、子どもを探していた。その人の背景を知れば、声掛けも『戸締まりしっかりされていますね』『お子さんは家で眠っていますよ』とそれぞれ違ってくる。その人の生活史や思いをくみ取り、『自分だったら、こんなケアや医療を受けたい』と考えながら向き合うことが大切だ」

 ―学会開催の成果は。

 「普段はなかなか県外まで足を運べない離島から医療・介護に携わる人が多く参加してくれた。知識を蓄え、経験を深めるいい機会になったと思う。今回、認知症の人と家族枠を初めて設け、4組が参加した。うち2組は閉会式でカチャーシーを踊ってくれた。周囲からとても温かい会だったとの感想をたくさんいただいた」

 「閉会式では、沖縄ダルクの方がエイサーの演舞をした。薬物依存者を支援する団体で、回復の過程にいるというあいさつがあった。それを聞いたある参加者が『認知症の人も、若者も頑張っている。皆が頑張っている社会だと思ったら、すごくうれしかった』と話していた。人は、皆、ジグソーパズルのピースのように凸凹。その凸凹を埋める形でお互いが支え合って、社会は一つになっていく。認知症になってできないことが増えてもそれを埋めるピースがあれば、また、一つの絵になる。認知症の方と家族を支えられる社会は、障がい者や子ども、さまざまな人にとっても優しい社会になる。社会で認知症の人の存在価値は大きいと思っている」

 ―認知症と共に生きる上で大事なことは。

 「認知症の人へ関わる人や施設が増えることで、点から線、面での関わりになり、年数を重ねることで面が膨らんで立体になる。その立体によって認知症の人を支えられたらいい。スーパーの店員さんが認知症のことを理解してくれれば、認知症の人も買い物に行ける。サポートをする側は、実はサポートするだけではなくて、将来自分が認知症になった時に自分がつくってきた社会によって支えられることになる。互いを補い合いながら生きる、そんな立体の社会を準備できたらいいと思う」

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 わくなみ・あつこ 医療法人アガペ会北中城若松病院理事長。県認知症サポート医。2008年から、沖縄県認知症施策推進検討委員会(現・県認知症施策推進会議)委員、14年から日本認知症グループホーム協会沖縄県支部長