『沖縄の保守勢力と「島ぐるみ」の系譜』 二項対立を越えた実相


社会
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『沖縄の保守勢力と「島ぐるみ」の系譜』桜澤誠著 有志舎・6480円

 本書は「革新」対「保守」という二項対立で語られることが多い戦後沖縄政治史について、保守政治を中心に丹念に政治過程と政策を追うことでより重層的な沖縄政治の歩みを描いている。民衆史がリードした戦後沖縄政治史研究は、本書が明らかにした沖縄保守政治家および政党の実像を踏まえることで、今後一層の進展が期待できる。

 その点で、著者は現実主義的に米軍基地を受任するが拡張には反対し、経済的援助および適正補償、適正運用を要求していく「保守的立場」と、「保守的立場」にとどまらず、米軍基地被害の問題性を重視し、基地自体への反対、撤去を志向していく立場を提起する。この枠組みは示唆に富む。著者によれば、両社は二分できるものではなく、後者は前者の発展過程にあるとされている。

 確かに、占領開始から土地収用に対する「島ぐるみ闘争」、祖国復帰運動などの展開は決して単線的なものではない。従来の二項対立的枠組みでは、保守政治の実態が正しく把握されたとは言い難く、それでは対立する革新陣営の理解についても浅いものになる恐れが出てくる。

 二項対立は「沖縄戦」をめぐる研究についても同様で、「軍隊の論理」と「住民の論理」が対立的に語られてきた。著者は「沖縄戦」に関する研究史を検証することで沖縄県護国神社復興過程も視野に入れることを可能にしている。「保守」対「革新」、沖縄戦史研究の両者に共通して「島ぐるみ」という活動が持つ歴史的意味を明らかにしている点も本書の重要な指摘である。

 戦後沖縄にとって「自立経済」が持っていた意味を復帰過程の中で検証したことも含めて、占領期から復帰に至る沖縄の歴史を検討するとき、本書は必読文献と位置づけられるだろう。単純な保守対革新ではなく、本書が明らかにした沖縄政治の実相から、現在の「オール沖縄」が成立する土台も生まれている。松岡政保、西銘順治、稲嶺一郎、平良辰雄といった個性的な政治家の息遣いが聞こえてくるようである。(佐道明広・中京大学教授)

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 さくらざわ・まこと 1978年生まれ、大阪教育大学准教授。立命館大学大学院文学研究科博士課程後期修了。主な著書に『沖縄現代史 米国統治、本土から「オール沖縄」まで』。

沖縄の保守勢力と「島ぐるみ」の系譜  政治結合・基地認識・経済構想
櫻澤 誠
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