82歳の中学生が絵本に 嘉納さん、息子が執筆 沖縄戦で学校に通えず


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦
絵本を出版した嘉納英明さん(左)とモデルになった母初子さん=那覇市の琉球新報社

 戦中・戦後の混乱期で学校に十分に通えなかった女性が、80歳にして学ぶ機会を得て学校に通い、義務教育修了の証書を受け取った物語が絵本になった。主人公となったのは、沖縄市に住む嘉納初子さん(85)でタイトルは「82さいの中学生 はっちゃん」(沖縄時事出版)。嘉納さんの息子の英明さん(55)=名桜大学教授=が作者で、英明さんは「沖縄戦の体験は聞くことはあっても、その後の暮らしがどうだったのかあまり伝わっていない。絵本という形で広く子どもたちに伝えたかった」と執筆の動機を語った。

 絵本は戦前、まだ平和だった頃から始まり、だんだん学校の勉強がなくなり防空壕を造るなど、戦時色が強くなる様子が描かれている。

 沖縄本島北部への疎開から収容所生活を経て、戦後きょうだいを学校に行かせるため働き続けた初子さん。家庭を持ち、子どもたちが巣立ってやっと自分の時間が持てる時期に、戦争で学校に行けなかった人を対象にした中学入学の案内が届く。学校でいきいきと学ぶ初子さんの姿が描かれている。

 自分が主人公の絵本について初子さんは「恥ずかしい思いもある。でもデイサービスに行くより、学校の方が楽しかった。引っ込み思案の性格が直って、自分が思うことを言えるようになった。自信が付いた」と述べ、学ぶことで人との会話に積極的になったという。

 初子さんが通ったのは、沖縄県教育庁の高齢者向けの義務教育未修了者支援事業の委託を受け、NPO法人エンカレッジが実施した無料塾だった。2013年1月から15年3月まで沖縄市内で学んだ。

 英明さんは「学びが人を成長させる。学びたい高齢者が学べるように、送迎バスなどがあれば、無料塾に通いたいと思う高齢者も増えるのではないか」と述べ、広がりを期待した。

 沖縄戦の平和学習としても活用できる。絵は英明さんの大学の教え子、鈴木智香子さん=東京都=が担当した。1300円(税抜き)。県内書店で販売中。