柳川強監督「沖縄の今描くため歴史描く」 劇場版「返還交渉人」への思い


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「歴史のドラマだが今を描いている」と語る柳川強監督=7日、那覇市の桜坂劇場

 沖縄返還の日米交渉に携わった千葉一夫外交官を描いたNHKのスペシャルドラマ「返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す」の劇場版が7日から、那覇市の桜坂劇場で公開されている。柳川剛監督に沖縄公開初日の7日、作品や沖縄への思いを聞いた。(聞き手 伊佐尚記)

舞台あいさつで観客の声を聞いてどう感じたか。

柳川 主人公の外交官・千葉一夫は沖縄のために頑張ったといっても本土の人だ。しかも(政府という)体制の中で頑張った人なので、どう受け入れられるかと思っていた。観客の話を聞いて、「沖縄に閉塞感がある中で勇気をもらった」と言う人もいたし、温かい反応がありがたかった。

たまたま埼玉から沖縄に来ていて、映画を見てから旅行の残り2、3日で見る所を変えたという若い女性2人組がいた。辺野古の基地問題とか、米軍基地がなぜ沖縄にあるのかを知る初めの一歩になればいい。自分で調べて考えることにつながればいい。

―今の沖縄をどう見るか。今、上映する意義とは。

柳川 歴史的なドラマだけど、今も沖縄返還の時代も全然変わってないと感じる。今を描いているという意識がある。千葉は戦時中、米軍の通信を傍受して艦砲射撃の音を聞いたが、沖縄のために何もできなかったという無念、怒りが根底にあり、一生沖縄のために尽くした。映画を作りながら、そういう小さな怒りを持ち続けることの重要性を思っていた。作り手も持ち続けなければいけないし、見ている方も「諦めたら負けだよな」と思ったなら伝わったような気がする。

―過去の作品でもよく戦争をテーマに選んでいる。

柳川 今を描くために戦争の時代を描いている。無慈悲な国家に個人の自由が圧殺されるということは今もそうだと思うが、当時の方が如実に構図として出る。

―音にもこだわっている。

柳川 取材で初めて嘉手納基地を訪れた時、戦闘機が低空飛行をして爆音と存在感で「殺される」と思うほど恐怖だった。あの音を忠実に表現しなければ、沖縄を描いたことにならないと思った。B52の音は当時の資料映像(から使った)。この映画は沖縄の音を巡る映画だと感じたので音の表現は大切にした。音楽を手掛けた大友良英さんにも作曲する前に沖縄に来て(爆音を体験して)もらった。また、B52の映像は当時の資料映像をきれいにし、今撮った映像はざらつかせることで、つなげた時の違和感をなくした。

―最後の千葉が歩いて行く場面は希望を表すのか、それとも道は遠いという表現か。

柳川 どっちにも取れるようにしたい。見た人の現状認識とつながってくる。本当は夕日に向かって行くようにしたかった。希望にしたかったが、天気が良くなかった。作り手が押しつけることではないので、逆にそういう表現になって良かった。

―印象に残る場面は。

柳川 石橋蓮司さん演じる屋良朝苗主席が、千葉にうちなーぐちで「本土の人間は私たちを小さな人間だと見ている」と言う場面だ。千葉と屋良が分かり合っても、どこかで溝がある。私自身も全て分かっているわけではないし、そういう瞬間をつくるべきだと思った。

―平良進さん演じる沖縄の男性が無言で海に祈る場面も印象的だ。

柳川 あれは絶対、沖縄を象徴する平良さんに演じてほしかった。外交官だった千葉の父は第2次世界大戦の時に自殺した。外交官として無念があったからだと思う。この映画はそういう父を追い掛ける千葉の話でもある。平良さんの役は沖縄戦で死んだ人のために祈っているんだけど、その後ろ姿は千葉にとっては自分の父親だ。

―今後、興味ある題材は。

柳川  琉球処分だ。この映画を作る中でいろいろ知ったので、その原点を見つめたい。