沖縄ヘイト放置のまま MX謝罪も収束せず  辛淑玉さん「ニュース女子」制作会社を提訴


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東京MXからの謝罪を受け、DHCテレビジョン提訴の方針を明らかにするのりこえねっとの共同代表の辛淑玉さん=20日、衆院議員会館

 ヘイトスピーチ反対団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉(しんすご)さんが、米軍基地建設への反対運動を巡る番組「ニュース女子」(昨年1月放送)での人権侵害について、制作したDHCテレビジョンと司会の長谷川幸洋元東京新聞論説委員を相手に月内に名誉毀損で提訴する。東京MXはニュース女子の放映を終了したが、DHCテレビジョンのサイトには人権侵害と指摘された回もまだ掲載されており、その差し止めも求める。人権侵害や沖縄での基地反対運動の誤った情報が放置されている状況は終わっていない。「DHCテレビジョンが本丸」と語る辛さんの提訴で舞台は新たに法廷へ移る。

 番組を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)は20日、放送倫理・番組向上機構(BPO)が人権侵害を認定したことを受け、辛さんに謝罪した。放送から1年半以上が経過し、BPOの認定を受けてからの謝罪に、辛さんの代理人らは口々に「全く不十分だ」との声も上がる。謝罪までこれほど時間がかかったのはなぜか。

 東京MXが昨年1月放送の番組を問題だと認識したのは今年3月のBPOの認定を受けてからだったという。辛さんの代理人が明らかにした。BPOの決定以降、東京MX側から和解の申し出を受け、辛さん側は検証番組の放送などを条件に求めた。だが東京MX側が受け入れなかった。

 謝罪の場で長時間を要したことをただした辛さんの代理人、金竜介弁護士は「東京MX側は本当は分かっていないのではないか。自分たちが作ったものではないことに責任を取らされている、巻き込まれたと思っているのではないか」と述べた。東京MXが今後何らかの形で発信するとしていることから、引き続き対応を注視していく。

 謝罪と会見に同席したのりこえねっと共同代表の佐高信さんは「BPOから言われたから謝らなきゃいけないという感じ。MXは賛成と反対の意見を聞かないといけないという『中立』を掲げているが、沖縄の、反対のことだけ100日間やってもようやくバランスがとれるほど。変な両論併記の『中立』メディアの存在が一番、彼ら(差別者)をのさばらせている」とメディアの在り方も指摘した。

 「番組内で侮辱され、傷つけられた沖縄の人たちの名誉はどうなるのか」。東京MXの謝罪の際、辛さんが読み上げた手紙があった。放送直後から東京MX前で抗議行動を続けてきた「沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない市民有志」呼び掛け人の川名真理さんが託したものだ。事後の会見で川名さんは「まだ収束していないということを認識してほしい」と訴えた。

 辛さんは今回の謝罪を受けるに当たり「ものすごい葛藤があった」と複雑な心境を明かした。沖縄への謝罪がない中で自身だけへの謝罪を受ける―そのことへの葛藤だ。裁判闘争に向けて「沖縄の友達を半分の足で踏みつけて上っていくのだから、負けるわけにはいかない」と涙を拭いながら決意を語った。

 「DHCテレビジョン、ヘイト、デマとの闘い、ジェノサイドに流れ行く社会との闘い。原告たり得る私がやらないとできない」。また新たな闘いが始まる。
(滝本匠)