辺野古土砂投入先送り 知事選にらみ「休戦協定」 政府と県、神経戦続く


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 沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は県に対し、埋め立て土砂の投入の先送りを伝えた一方、前知事による埋め立て承認の撤回の延期を求めた。この交渉内容は、翁長雄志氏死去に伴う知事選が9月30日に控え、辺野古移設問題が選挙戦にもたらす影響を避けるため政府が持ち掛けた「休戦協定」(政府関係者)の色合いが濃い。政府、県の双方が互いにけん制し合う神経戦が続く。

■苦慮

 辺野古移設を巡り、政府はできるだけ早期に土砂を投入し、作業が後戻りできない段階にあることを演出することで、県民の諦め感を誘い、もともと11月に予定されていた知事選への影響を最小限にする戦略を描いていた。だが翁長氏の死去により、県民が反対する中で、政府が移設を強行しているとの印象が全国的にも再びクローズアップされることになった。影響を懸念した政府側が方針の再検討を迫られ、土砂投入延期という知事選までの「休戦」を申し入れた格好だ。想定外の事態に苦慮する政府の姿が浮かび上がる。

 政府側が11日に県幹部に土砂投入の延期を伝えた前日の10日、翁長氏の通夜に参列するため沖縄入りした菅義偉官房長官は、那覇市内のホテルで沖縄防衛局の中嶋浩一郎局長と面会した。知事選をにらみ、土砂投入先送りを指示したとみられる。政府関係者は「知事の影響力が強まり、逆風がいつ吹きやむかは見通せない」と語る。

 政府の対応には、知事選を見据えた公明党への配慮もにじむ。自民党にとって、前回知事選を自主投票とした公明の選挙協力は不可欠で、今も辺野古移設に反対の立場を掲げる公明党県本の判断が焦点となっている。公明党内やその支持層には、追悼ムードに包まれる中で移設作業が強行されることを嫌がる空気もあり、自民関係者は「丁寧な協議が必要になる」と話す。

■警戒

 県や県政与党は国の思惑を見極める必要に迫られ、協議を続けている。13日から県庁の三役室は報道関係者の立ち入りが制限されるなど、閉め切られて緊迫感が漂った。13日から知事の職務代理者となった富川盛武副知事は埋め立て承認の撤回について「刻々と変化する状況も踏まえていつやるかを決める」と述べるにとどめ、慎重な姿勢を示す。

 14日、謝花喜一郎副知事は上京し、防衛省などを訪れ、基地問題に関する全国知事会の要請行動に参加した。県関係者によると、その日程の合間に政府関係者とも接触し、辺野古の問題でも意見を交わしたとみられる。

 県は国が土砂を投入する時期が確定すれば、その前に撤回に踏み切る方針だ。効果を最大化するため、国の動向を見極める構えだ。土砂が投入されなければ、そのタイミングで承認を撤回する必要性は小さくなる。しかし、知事選への影響を見据えるオール沖縄陣営としては政府の提案に乗った形は避け、主導権を発揮して県民の支持を広く得たい側面もある。

 県幹部の一人は「(土砂投入の延期が)知事に対する愛情であるはずがない。政府はしたたかだとよく分かっている。警戒心を強めなければならない」と用心する。

 県は撤回に向けた手続きを加速させ、撤回を「いつでも打てるように」(富川副知事)準備を進めている。県幹部の一人は「こちらから仕掛けられる撤回は、最後のカードとして、ぎりぎりまで残しておかなければならない」と見通した。
 (當山幸都、明真南斗)