辺野古承認撤回 「新基地阻止へ前進」 ゲート前、市民に感慨


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米軍ジャンプシュワブのゲート前で「沖縄を返せ」を歌い、新基地建設に反対する市民ら=31日正午前、名護市辺野古

 8日に亡くなった県知事の翁長雄志さんの遺志を受け、名護市辺野古の埋め立て承認を県が撤回した。米軍キャンプ・シュワブゲート前や大浦湾海上で抗議行動を続ける市民は撤回を歓迎し、今後の基地建設阻止へ向けて気持ちを新たにした。移設先の名護市民からは「ウチナーンチュの意地を見せてくれた」と撤回を支持する声が上がった一方、「国は県民が反対しても工事を進める」と諦めの声もあった。米軍普天間飛行場が所在する宜野湾市民からは同飛行場の閉鎖・撤去を願う半面、危険性を他の地域へ移すことにも抵抗を感じるなど複雑な思いが聞かれた。

 【辺野古問題取材班】31日午前、新基地建設現場の名護市辺野古の海。県による埋め立て承認の撤回を前に、建設反対を訴え続けてきた市民の顔には時折笑顔が浮かんでいた。「翁長さんが命を懸けた願いに一歩近づいた」。海上、ゲート前に集まった市民は、新基地建設阻止への思いを改めて共有した。

 この日、シュワブゲート内への資材搬入や護岸建設現場の工事はなかった。2014年7月から始まったゲート前での座り込みは1517日目。集まった市民は2時間以上にわたり座り込んだ。代わる代わるマイクを握り、「諦めない」「戦いはこれからだ」などと訴えた。「沖縄を返せ」を合唱した。

 3年前から県内に滞在、抗議に参加する千葉出身の橋本武志さん(67)は「ついに撤回のときがきた。県がきちんと判断してやってくれた」と胸をなでおろした。4年前から辺野古に通う砂川久美子さん(69)=那覇市=は「まだ国がどう動くかわからないが、一歩進むことができた」と感慨深げに話した。

 一方、建設中の護岸付近の海上では、市民がカヌー8艇、抗議船3隻で抗議行動を展開した。芥川賞作家の目取真俊さん(57)も抗議船のマイクを握り、「撤回には翁長知事の命を懸けた思いがある。君たちは理解できるか」と警備員らに訴えた。沖縄平和運動センター議長の山城博治さんは東京滞在中、県の撤回を電話で知らされた。9月の知事選では辺野古新基地が争点になると指摘。「政府は、土砂投入を先送りし、争点外しを狙っていただろうが、そうにはならない。改めて新基地が問われる」と強調した。ヘリ基地反対協議会の安次富浩共同代表は「両副知事はさまざまな圧力をはねのけ、職務を遂行したことを評価したい」と語った。

■名護に喜びとため息 「よくやった」「工事は進む」

 【名護】辺野古新基地建設を巡って、県が埋め立て承認を撤回したことに、地元名護市民からは「よくやった」と県を支持する声が聞かれた一方、「反対しても基地建設は進む」などと、ため息交じりに話す人もいた。

 名護市田井等の阿波根数男さん(69)は、テレビのニュースで県の撤回を知り「大いにいいことだ」と喜んだ。新基地建設では、騒音や航空機墜落のリスク拡大などを懸念する。「名護が普天間と同じ状態になる。普天間飛行場は無条件返還するしかない」と訴えた。

 「ウチナーンチュの意地を見せてくれた」。辺野古区の70代男性は日に焼けた顔をほころばせた。男性は21年前の名護市民投票から反対を貫く。「沖縄にこれ以上、基地を造ってはいけない。子どもの未来を守るのが大人の役割だ」と言い切った。

 一方、辺野古では政府の強行策に「基地はどうせ造られる」との諦めの声も聞かれる。辺野古区民の知念良和さん(57)は「国は県民が反対しても工事を進める。反対して国と対立するのよくない。基地で振り回されたくない」と漏らす。撤回については「知事の遺志だ。国と県の争いが法廷闘争になるので、その様子を注視したい」と語った。

 60代の男性は「また賛成反対を繰り返すのか」とため息交じりだ。当初は反対していたが、工事が進む現状に、押し切られるように容認に転じた。「本音は反対だ。だが(工事が)しばらく止まってまた始まるのなら、最初から止まらないほうが気持ちが楽だ」とつぶやいた。

■宜野湾市民、思い複雑 撤回支持、移設遅れ懸念も

 【宜野湾】米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市民からは、基地の負担を減らせるといった肯定的な意見や、移設が遅れるのではという懸念の声が上がった。

 市役所に訪れた矢田沙織さん(40)=志真志=は「基地が市街地の中心にあるのはよくない。かといって辺野古に基地を造っていいわけではない思う。基地を負担したくないのはどこの市町村も一緒だ」と撤回について支持した上で、「老朽化した施設などを統合して、基地を縮小していくことが一番だ」との見解を示した。

 今年3月まで沖縄国際大学の学生で、同市長田に4年間住んでいた加島歌苗さん(22)は「基地が移設されたら、講義中に騒音で授業が止まることがなくなる。普通に授業が受けられることはいいことだ」話し、移設には容認の姿勢を示した。「でも辺野古に基地ができても、住んでいる人が困るんじゃないかな。複雑…」と顔を曇らせ、撤回の是非については決めかねた。

 市役所へ婚姻届けを取りに来たカップルは4月から宜野湾市野嵩で暮らし始めた。女性(22)は「基地の移設が延びてしまうのはよくない」と眉をひそめる。男性(23)は「一度決めたことを取り消すのはおかしい」と撤回について異議を唱えた。問題が混迷していることについて「県民の民意が分からない。県民投票をして、一つの方向にまとめた方がいいのでは」と話した。