沖縄知事選で自民の「勝利の方程式」が崩壊した理由


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佐喜真淳氏(中央)の応援演説を繰り広げる菅義偉官房長官(右)と小泉進次郎自民党筆頭副幹事長=9月16日午後、県民広場前

 投開票日まで1週間に迫ったころ、佐喜真淳氏の選対会議は紛糾した。月内4度目、選挙期間中3度目となる菅義偉官房長官の沖縄入りが検討されたが「入れるべきだ」「やめた方がいい」と意見が割れた。結局、台風もあり見送られたが、安倍官邸主導の選挙戦を象徴する場面だった。

 政府と連携し経済振興を主張した佐喜真陣営。名護市長選を勝利に導いた菅氏主導の自民、公明、維新による「勝利の方程式」で臨んだ。選挙戦で佐喜真氏は「辺野古」への言及を避け続けたが、当初は「東京の意向」(陣営関係者)で基地問題に一切触れず「普天間」に言及しない案も検討された。強い影響力がある菅氏だが、新基地建設を強行する安倍政権の象徴的存在で陣営内部からも「イメージが悪すぎる」と指摘する声が相次いだ。

 菅氏にとどまらず佐喜真氏の応援弁士を巡っては、効果を疑問視する声もあった。元沖縄担当相の小池百合子東京都知事が来県して実施した応援演説は、二階俊博自民党幹事長に恩を売るためとみられている。石破茂氏も来県して演説したが、総裁選後の「党内融和醸成のため」(陣営関係者)と指摘されている。自主的に支持固めに回る議員が多い中、片山さつき氏は陣営に遊説日程を「丸投げ」(同)し、陣営スタッフは調整に追われた。

◆期日前ノルマに不満噴出

 官邸主導の選挙戦が進む中、東京から投入された議員団への批判も渦巻いた。企業を回った自民党国会議員が予算獲得をアピールすると、企業経営者からは「金の話ばかりするな」と苦言を呈された。また企業や団体にはノルマを設定して、期日前投票を報告するよう指示したが、締め付ければ締め付けるほど陣営への不満や反発の声が噴出した。バブル期を超える空前の好景気に沸く県内で、目玉に欠ける佐喜真淳氏の経済政策は色あせて映ったようだ。繁忙期さなかの選挙戦に、実動部隊となる企業の動きは鈍った。

 さらに統一地方選とセット戦術を組んだものの、地方議員は自身の選挙に注力した。超短期決戦では街頭の訴えも重視せざるを得ず、自民党得意の「ステルス選挙」も十分に取り組めなかった。

 公明の支持母体である創価学会は県内に数千人規模とされる大勢の人員を投入。選挙期間中3度沖縄入りした小泉進次郎氏の街頭演説会のうち2回で支持者を大勢動員した。県外からも電話作戦で佐喜真氏への投票を促すなど総力戦を展開した。その中で一部が玉城デニー氏支持へ流れたことが注目されるが、自民党本部関係者からは母数の大きい自民の支持基盤を固め切れず「自民の負けパターンだ」との嘆きも漏れる。

 維新も前回知事選に出馬した下地幹郎氏が前回得票した約7万票を「佐喜真氏へ」と明示し、期日前投票を促すなど支持固めを進めた。知事選の功績次第で次期衆院選に向けて下地氏の自民復党や推薦もささやかれる中、独自の決起大会を開催した。そこにはかつて敵対した元知事の仲井真弘多氏も出席し「保守融和」を演出するなど佐喜真氏の支持拡大に奔走した。それでも最終的に佐喜真氏に上乗せできたのは約4万票と見られており、維新幹部も「限界だった」と吐露した。

 結局、佐喜真氏を推薦する各党から数千、1万といわれる人員が動員されたが、菅氏主導の「勝利の方程式」は崩壊した。1日の会見で知事選について問われた菅氏は「政府としてコメントすべきでない。いつもの首長の選挙と同じだ」と平静を装った。

 1日夜、総括会議を終えた自民県連幹部は「官邸は沖縄のことを分かっていない。県民は賢明な判断をしたかもしれない」とつぶやいた。
 (’18知事選取材班)