5月4日午前1時過ぎ、沖縄の世界自然遺産の登録でユネスコの諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)が延期を勧告したと会社からのメールで一報が入った。
「ほえー」。事前取材で、国や県の関係者が登録に自信をみなぎらせていただけに、予想外の結果に驚き、衝撃が走った。紙面展開の準備を進めてきたが、「登録」の勧告が前提のものだった。
「見通しが甘かったと言われても仕方ない」。同日午前4時40分から会見を開いた環境省の担当者はこう発言した。自然遺産の登録延期勧告は国内で初めての事例だった。報道する側も同じように見通しが甘かったのではないかと自問した。やんばるの森や西表島の豊かな自然を紹介し、登録に向けた機運を紙面で作り出そうと奔走してきたからだ。
「地元の準備は万全ではない」「世界遺産登録は国策だ。地域の意見が反映されていない」。延期勧告を受け、改めて地域の関係者を取材すると、現時点での登録を望む声ばかりではないという別の側面も見えてきた。地元のこうした受け止めを記事にした。
5月中旬、IUCNが勧告の全文を公表した。スイスにある国際機関のため通常の行政機関の取材と違って直接取材ができない上、具体的な公表日時も分からなかった。発表が予想される日が近くなると同僚記者と深夜まで会社に残り、ホームページを確認した。
どうして延期勧告をしたのか。その理由を冷静に紙面化しようと、同僚記者と必死に13ページのレポートを読み込んだ。同時に識者の助言を得ながら分析した。
延期が勧告された最大の理由は、米軍北部訓練場跡地を世界遺産登録後に対象地域に組み込もうとした手順だった。跡地がはらむ汚染問題、返還されていない基地が隣接している現実を国や県が直視しなかった姿勢にも原因があったことを、紙面で指摘した。
報道後、取材先から「琉球新報は世界遺産登録を望んでいないのか」と批判されたこともあった。それに対しては「このまま登録されるのがいいとは思わない。地域の人や自然保護団体が行政と共通認識を持ち、態勢を整えるべきだ」と説明したが、どこまで伝わったか分からない。
国や県、地元町村は最短で2020年の登録に向けて、既に準備を進めている。
登録がゴールではない。沖縄の環境保全や人々の暮らしにとって何が最善なのか。取材先にも、自分自身にも常に問いながら、記事を書いていきたい。
(清水柚里)