沖縄県、対抗措置に意見書 政府の「矛盾」突く 「行政審査法使えぬ」 「承認」、対象は国に限定


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、沖縄県は24日、埋め立て承認撤回の効力を止める執行停止は却下されるべきとした意見書を国土交通相へ送付した。私人の権利救済を目的とした行政不服審査法を沖縄防衛局が使うことは不適法だと批判し、執行停止を認める緊急性もないことなど真っ向から反論した。県の意見書の提出により、同じ内閣の中で救済を図る「身内」批判が強まる中で、国交相が執行停止を認める判断をするのか焦点となる。

 沖縄防衛局は、私人救済を目的とする行政不服審査法(行審法)を利用する根拠として、仲井真弘多元知事から通常の事業者と同じ手続きで埋め立て承認を得たことなどを挙げている。

 だが県は意見書で、国は私人と同一の立場ではない「固有の資格」を持つ機関であり、そもそも行審法を利用することができないと指摘した。

 その理由として、防衛局が埋め立て「承認」を受けていることを挙げた。公有水面埋立法(公水法)では「承認」を受けるのは国のみに限定している。私人が都道府県知事から受けるのは「許可」だと指摘する。県は公水法が規定する「承認」と「許可」の違いを説明し、防衛局は国の機関としての立場を有していると結論付けた。

 加えて、新基地建設事業は日米安保条約上の義務を履行するために閣議決定に基づいて基地を建設し、完成後は他国に提供する事業のことを指しており、私人ではなし得ないことだと強調した。県はこれらの理由から、国の機関として「承認」を受けている防衛局は私人救済を目的とした行審法を使えないと指摘した。

<執行停止>「緊急性認められない」/申し立て、撤回の1カ月半後

 行政不服審査法が執行停止を認める場合の「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」という要件について、県は損害の性質が法律の要件を満たさず、埋め立て事業の緊急性も認められないと主張した。

 防衛局は執行停止に該当する根拠として、工事中断により警備費や維持管理費などで1日当たり2千万円の不要な支出を迫られることのほか、普天間飛行場の返還が遅れることによる周辺住民の生活環境改善の遅れ、日米間の信頼損失による安全保障体制への影響を挙げている。

 これに対し県は、日米関係や普天間周辺住民の生活環境は、行政不服審査法が救済対象とする私人の権利利益ではなく一般公益だと指摘し、執行停止によって救済される損害とは性質が異なると反論した。

 2015年の承認取り消し時には県の処分決定を受けて即時に防衛省が執行停止を申し立てたのに対し、今回は県の撤回決定から申し立てまで1カ月半かかっており、知事選への影響を配慮した政治的な理由による保留は緊急性がないことの証しだとする。

 県の弁護士は「水深が深く軟弱地盤のある大浦湾側は実施設計もできていない状態で、この先何年かかるのかも分からない。工事に緊急の必要性があるというのは虚構だ」と指摘した。

<撤回処分>「国、事前協議応じず」/根拠の正当性 説明

 沖縄防衛局が県の公有水面埋め立て承認撤回は違法だとして執行停止を申し立てたことに対する県の意見書では、防衛局の申し立ては不適法だとして却下を求めた上で、撤回処分が適法であることの根拠について改めて法解釈を展開している。

 県は撤回処分の理由として(1)事前協議を行わずに工事を開始した違法行為(2)軟弱地盤、活断層、高さ制限および返還条件など承認後に判明した問題(3)サンゴやジュゴンなどの環境保全対策の問題―が認められ、災害防止や環境配慮、国土利用の観点から公有水面埋立法に基づき撤回に至った理由を展開している。

 反論を用意する期間が十分に設定されなかったなど、撤回前に実施した県の聴聞手続きなどに不備があったと防衛局が主張していることに対しては、国に対する処分では行政手続法に基づく意見聴取を適用する必要がないと反論を示し、撤回が行政権の乱用には当たらないことなどを主張している。

<解説>法治国家 在り方問う

 沖縄防衛局からの埋め立て承認撤回の執行停止要求に対し、県が国土交通相宛てに送付した意見書は「辺野古が唯一の解決策」だとして緊急性を訴える政府の「矛盾」(県側弁護団)を突くと同時に、申し立てを足元から崩すことを狙う内容になっている。審査請求書などで県の撤回処分を「違法で不当だ」と否定した政府に対し、正面から切り返した形だ。

 県は撤回が正当である根拠として2017年6月に稲田朋美防衛相(当時)が代替施設が完成したとしても別の返還条件を満たさなければ返還されないと発言したことに言及している。普天間飛行場の早期返還のために埋め立てるという論理が破綻し、埋め立てに見合う土地利用の価値を求める公有水面埋立法に適合しないと指摘する。

 また、軟弱地盤が仮にあっても一般的な地盤改良工事で対応できると主張する政府に対し、県の弁護団は「何年かかるか分からない。普天間飛行場を返還させたいならば、辺野古に基地を造ることは遠回りだ」と埋め立てに合理性のないことを強調した。

 15年は政府が取り消し翌日に対抗措置を講じたのに対し、今回は撤回から1カ月半が過ぎている。執行停止の判断基準となる「緊急の必要性」という点で説得力に欠ける面は否めない。

 15年と同様、行政法学者の有志が立ち上がり、国の制度利用を批判する動きもある。多くの行政法学者も指摘する“無理筋”を政府が再び強引に押し通すかどうか、「法治国家」としての在り方が問われる。
 (明真南斗)