「辺野古」県民投票条例成立 問われる知事手腕 与野党に溝、政府は警戒感


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「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に反対を表明した自民や公明の県議=26日午前、沖縄県議会

 辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票条例が26日、県議会で与党による賛成多数で可決、成立した。委員会採決と同様に全会一致には至らず、県が目指す41市町村での実施に向けて課題を残す結果となった。県議会の議論を注視してきた市町村や議会に影響を与える可能性もある。県は今後、態度を保留する自治体を中心に協力を呼び掛ける構えで、玉城デニー知事の手腕も問われそうだ。一方、県民が初めて新基地の是非を明確に示す機会となるだけに政府では警戒感が広がっている。

■選択肢の数で攻防
 「与党がかたくなすぎて、与野党で一緒にやっていこうと環境づくりをしていなかった」。与党提案の修正案が可決されたことに4択の修正案を提出した自公や採決時に退席した維新は不信感を募らせる。条例案を巡っては、選択肢の数を巡って与野党で激しい攻防が繰り広げられた。明確に賛否を問い、民意を示すべきだと主張する与党と、複雑な県民感情を酌み取るために4択を提案した自公。最後まで議論はかみ合わず、互いに歩み寄ることはなかった。与党県議の一人は自公の不満に「一本化の協議を何度も呼び掛けたが向こうが応じなかった」と反論するなど、与野党の対立は根深い。

 条例成立により市町村は県民投票に伴う委任事務を負う義務があるが、強制力はないため、全市町村で実施できるか不透明な部分もある。ただ与党からは「違法だと分かっていて違法なことをするのが首長の職責と照らしてどうなのか」(宮城一郎県議)などの意見も多く、強気な姿勢だ。別の幹部は「県民投票で求めるのは県民に明確に意思を表示してほしいということで、市町村長や議会に問うわけでもない」と語った。

■1996年の動き再現も
 与党は、1996年の県民投票で起きた自民党県連や保守系首長らによるボイコット運動を警戒する。与党幹部は「当時の動きが再現される可能性がある。保守系議員が多数を占める議会でも同様の動きが出てくるかも警戒する必要がある」、と懸念する。ただ8万票差がついた知事選直後だけに、「自公維」の議員からは「注視するとしか言えない」(自民幹部)との声も多い。自民関係者は「県知事選の結果を考えると表だってボイコット活動はしない。ただ県議会で全会一致にならなかったことから、協力しない市町村が出てきてもおかしくない」とけん制する。公明幹部は「結果を尊重するには4分の1の得票数を取る必要がある。ハードルは決して低くない」と話した。

■「仮定の話」繰り返す
 「仮定の話なので差し控えたい」。県議会での条例案可決後の会見で、岩屋毅防衛相は県民投票で示された民意に従うかどうかなどを問われ、こう繰り返した。菅義偉官房長官も会見で住民投票という手法について「政府としてコメントするべきではない」などと深入りは避けた。

 これまで辺野古移設が争点に絡む注目選挙のたびに、菅氏は会見で地域経済の発展や住民生活の向上などを挙げ「何が争点になるかは地元の皆さんがご判断される」との考えを示してきた。辺野古移設の是非のみを問う県民投票は、まさに民意が明確に示される機会となる。

 政府関係者は「県知事選の結果を踏まえても、県民投票で反対が多い結果になるのは目に見えている」と語り、岩屋氏や菅氏の発言はあらかじめ“予防線”を張るものだとみる。防衛省関係者は「シングルイシュー(一つの争点)で民意が出るのは確かだが、最高裁判決もある。民意は理解できるがそれだけではない」と語る。(吉田健一、當山幸都、中村万里子、山口哲人)