県・政府の「辺野古」集中協議終了 4度議論 溝埋まらず


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 米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設を巡り、玉城県政と安倍政権との1カ月の集中協議は双方の主張が平行線をたどり、県は11月29日に埋め立て承認撤回の効力を復活させるため国地方係争処理委員会に審査を申し出た。非公開で重ねられてきた集中協議の経緯を振り返り、県の主張や課題を検証する。


〈県が総事業費試算〉費用2.5兆 国想定の10倍

 「基地の運用まで最短でも13年、費用は完成までに最大2兆5500億円掛かることをはっきり申し上げた」。11月28日に官邸で安倍晋三首相とのトップ会談を終えた玉城デニー知事は、辺野古新基地建設計画は大幅な工期の遅れと費用の膨張に見舞われるという県の試算を明らかにした。

 防衛省が公有水面埋め立て承認願書に添付した資金計画では、埋め立て工事に必要な全体の事業費として、5年の工期で計2405億4千万円という期間と予算を示していた。

 ところが、県による埋め立て承認撤回を不服として沖縄防衛局が国土交通相に提出した資料によると、護岸7本を建設しただけの現状にもかかわらず、今年3月末までに契約した金額が既に約1426億円にも上ることが記載されていた。

 当初の資金計画に基づけば護岸7本の建設に要する費用は78億4千万円にすぎず、着手に至っていない埋め立て工程からが最も費用を要する。

 3月末までの契約額のうち工事が終了して支払い済みとなっているのは約920億円で、当初計画の78億円に比べて11倍超に予算が膨らんでいる。

 このペースで事業費全体が約10倍の規模に膨らめば、約2400億円とした資金計画は2兆4千億円という膨大な額に達するというのが県の主張だ。

 また、辺野古新基地建設では今後、大浦湾側の「軟弱地盤」の対策が必要となることが想定される。岩国飛行場(山口県)の沖合拡張整備でも、強度が緩い海底地盤を改良する工事のために、工期が5年延び、500億円の予算追加が必要となった。岩国の地盤改良工事で使った土砂量に、沖縄までの運搬単価を掛けると、土砂調達費として1千億円をさらに要する。

 10倍に膨らんだ埋め立て事業費2兆4千億円に、地盤改良工事費として500億円、土砂調達費として1千億円を加算し、2兆5500億円の試算を導いた。

 期間も埋め立て工事の5年だけでなく、岩国で要した地盤改良工期の5年、埋め立て完了後に上物施設を整備する3年の工期を追加。普天間基地の代替施設として使えるようになるまでには最短でも13年が掛かると見込む。

 玉城知事は「一日も早い普天間の危険除去が必要だが、辺野古移設ではさらに返還が遅れることが危惧される」と述べ、工事を停止し、膨大な予算の投入から引き返す道を説いた。

 県の試算に対し、国として事業費や期間の見通しを国民に示すことが求められる。


〈県土保全条例改正案〉対抗策で過去に検討 「公平性」に懸念も

 謝花喜一郎副知事は、11月28日の杉田和博官房副長官との集中協議で、辺野古新基地建設を阻止する措置の一つとして過去に「県土保全条例」改正を検討した経緯などを伝えたと明らかにした。

 県土保全条例は県土の乱開発防止を目的とする。3千平方メートル以上の土地を開発する場合、事業者に県知事の許可を受ける義務を課しているが国や地方公共団体は適用除外となっている。

 県議会与党は、2015年から16年にかけて勉強会を重ね、国や地方公共団体の開発行為を規制の対象に入れる改正案を議員提案する方向で調整を進めていたが、議会への提出には至らなかった。当時の経緯に詳しい与党県議によると、公平性の観点などを踏まえて「80%程度」まで積み上げたが、16年6月に行われた県議会議員選挙までに間に合わなかったという。

 条例が定める開発行為は「土地の区画形質の変更」と定義され、具体的には切土、盛土または整地によって土地の物理的形状を変更することとする。

 条例を改正し、国に知事の許可を受ける義務を課すことができれば、米軍キャンプ・シュワブ陸上部で予定されている工事を阻止できる可能性があるとみられる。ただ、米軍基地内に適用できるかなど実効性は不透明だ。

 与党県議の一人は「公平性の担保が難しい。条例の改正は辺野古を狙い撃ちにするということで、恣意性があり違法とされる可能性がある」と話す。市町村にも網を掛けることになるため、反発も予想される。仮に改正に向けて再び動きだす場合、こうした難しさをどうクリアしていくのか注目される。

 謝花副知事は、県土保全条例改正以外でも、今後、他の都道府県の環境に関する条例研究など、さまざまな手法を検討するとの考えも示している。


〈経過と争点〉県「安保環境は変化」 政府「辺野古が唯一」不変

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設問題について県と国が話し合う集中協議は、対話を重視する玉城デニー知事の申し入れにより実現した。菅義偉官房長官は開催には応じたものの、1カ月に及ぶ集中協議の期間中も工事を進める考えを譲らず、土砂投入に向けた準備作業は着々と進められた。協議も平行線に終わり、前進は見られなかった。

 集中協議は事務方のトップである謝花喜一郎副知事と杉田和博官房副長官を窓口として都内で開催。11月9日の初会合を皮切りに週1回のペースで同28日まで計4回行われた。

 初会合では協議の土台として普天間飛行場移設について双方の考え方を確認した。謝花氏は移設を決めた1996年の日米特別行動委員会(SACO)合意からこれまでの経緯に触れ、多くの県民が辺野古移設に強い抵抗感を抱く背景を説明した。

 2回目となる14日の協議では、謝花氏は北朝鮮や日中情勢の変化など安全保障環境が好転しているとして「沖縄に(新基地を)置く理由はない」と指摘。(1)新基地の必要性(2)普天間飛行場移設による「早期の危険性除去」への疑問(3)建設費が増加する可能性(4)軟弱地盤の存在―の4点を論拠に新基地建設断念を迫った。

 22日の第3回協議でも歩み寄りはなかったが、集中協議期間の終了後も協議を続けることを確認した。

 最終回の28日に謝花氏は、辺野古新基地の運用開始まで最短でも13年かかることや、工費が2兆5500億円に膨らむ県の試算を提示したが、政府の「辺野古唯一」の姿勢を改めるには至らなかった。