差別的表現「まとめる」行為も新たな権利侵害 <沖縄フェイクを追う>⑪~まとめサイト❹


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「まとめサイト」の法的責任を認めた大阪高裁判決の判決文

 在日朝鮮人女性でフリーライターの李信恵(りしね)さん(47)が、まとめサイト「保守速報」に中傷を繰り返され、精神的な苦痛を被ったとして訴えた裁判で、保守速報の運営者本人は法廷に一度も姿を見せることはなかった。保守速報側は代理人の弁護士が出廷した。

 保守速報はインターネット上の匿名掲示板などで李さんを攻撃する投稿を集めた記事を拡散した「まとめサイト」の一つ。裁判では大きく二つの争点があった。一つ目は保守速報の記事が差別をあおり、李さんの権利を侵害したかどうかという点だ。

 保守速報側は「社会通念上許される限度を超えた侮蔑には当たらない」などと主張した。それを法廷で聞いた李さんの感想は「やっぱりそう言うのか」だった。責任を回避する主張は覚悟していた。だが弁護人が法廷で堂々と正当性を主張する姿を見るのは「傷つくし、しんどかった」と漏らす。

 保守速報は2013年から約1年間で、李さんに関する45本の記事を掲載した。匿名掲示板から「気違い女」「ゴキブリ朝鮮人」などの言葉を引用したが、保守速報側は「李さん個人に向けた言葉ではなく、李さんの思想に対する批判だ」とし、人種や女性の差別には当たらないと主張した。

 争点の二つ目はネット掲示板の投稿を転載してつくる記事に対し、引用元の掲示板とは別の法的責任が生じるかどうかという点だった。保守速報側は「李さんの権利は引用元の投稿で侵害されたもので、サイト記事の掲載で新たに侵害されたものではない」と強調した。

 李さん側は、保守速報が記事の引用元のネット掲示板よりも文字を大きくしたり、色を付けたりして「派手」に主張を発信していることや掲示板にはない李さんの写真を掲載していることなどを指摘した。その上で、単なる引用ではなく「まとめる」という行為で李さんの権利が「新たに侵害された」と訴えた。

 大阪地裁、大阪高裁はまとめサイトの法的責任を認め、記事の内容も女性差別と人種差別の複合差別だったと認定した。そして保守速報側に損害賠償として200万円の支払いを命じた。最高裁も昨年12月11日付で高裁判決を支持し、李さんの勝訴が確定した。

 保守速報の運営者は敗訴確定後、サイト上で「保守速報は続けていきます」などと短い記事を掲載した。李さんは「勝てて良かった。判例がデマやヘイト(憎悪)の抑止力になってほしい」とさらなる法的整備などを求めた。

 今回の判決が沖縄へのヘイトの抑止力になるだろうか。ファクトチェック取材班に対し、李さんの代理人弁護士は「名誉毀損(きそん)は個人を守るためにあり、集団への名誉を守るためにはない」と否定的な見解を示した。

 ただ、今回の裁判の判決以降、保守速報などまとめサイトは大きく変化することになる。
 (ファクトチェック取材班・安富智希)