県民投票の請求者、県や与党を批判 5市実施拒否で県の事務代行求める 


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦
条例を改正せずに沖縄県民投票を行う方針を示す玉城デニー知事=11日、県庁

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に伴う新基地建設に向けた埋め立ての賛否を問う県民投票を巡り、協力を拒否している県内5市は実施が困難な見通しとなっている。全県実施のためには5市で県が事務を代行するか、政治的な決着を図るしかないが、先週、県政与党と会談した玉城デニー知事は期日を延期せず、県の代行に必要な条例改正は困難だという見方を示した。県民投票条例の請求代表者からは「全県で実施しなければ、県に矛先が向かうことは間違いない」などと県が直接実施すべきだという声が強まっている。

 与党県議の一人は16日、本紙の取材に「(市長らが)まさかそこまでするとは思わなかった。われわれの判断の弱さもあったのかも」と吐露した。昨年10月、本会議で可決した当時、与党県議の間には「保守系の人たちに埋め立て賛成の人も多いはずだ」「前科者になるのに違法だと分かっていて拒否するはずない」といった楽観論が多く、心配する声は上がっていなかった。議会で否決されたとしても首長は専決処分を行うはずだとの見立てがあった。

 混迷を深める状況に与党県議の一人は「もし5市長が選択肢を変更して協力するという確約を取れるなら、期日を延ばしてもいい」と話す。しかし大多数の与党県議は「悪いのは自民党や5市長であってなぜ譲歩しないといけないのか」と否定している。自民の県議も「与党のプライドもあるし、時間もないから条例改正できないだろう」と見透かす。自民党は、期日を延期すれば4月に予定される衆院3区補選近くになり、影響が出ることを警戒する。

 与党には、実施を拒否する市長に矛先を向けておくことが得策だという向きがある。「民主主義を否定した市長を当選させてはいけない」と訴えることで、一連の国政選挙や次の市長選挙で自民党への反発が得票に結び付くとみる。次の選挙を見据えての判断だ。

 投票条例の制定を請求した市民グループ、「辺野古」県民投票の会の安里長従副代表は昨年10月、こうした事態を想定し、県議会米軍基地関係特別委員会で自民党が選択肢を増やすことを求めた際、内々に「容認」「反対」の2択を自民との交渉カードに使ってもいいと与党県議に打診していた。自民と公明は、条例の修正案として選択肢を「賛成」「反対」「やむを得ない」「どちらとも言えない」の4択を提示した。照屋守之県議(自民)は3択まで譲る姿勢を見せたが、結局、与党内で自公の修正案や安里氏の2択案を取り上げて検討することはなかった。

 5市長が拒否を表明した後、同会は宜野湾市、うるま市、沖縄市の市長らと面談し、協力を要請した。安里氏は沖縄市の桑江朝千夫市長に「容認」「反対」の2択なら実施を検討するかとの質問を繰り出し、前向きな回答を引き出した。県や与党に交渉に臨むよう求め続けたが、応じてもらえなかった。

 玉城知事は11日、日時は変えず条例の改正は困難だという方針を与党と確認し、発表した。5市から選挙人名簿の提供を受けられるか懸念も残っていた。請求代表者らはこの決定の背景について「リスクを背負いたくない県と党勢を拡大したい与党の利害が一致した結果だ」「与野党とも政争の具にしている」などと指摘する。

 「県民投票の全市町村実施を求める会」の呼び掛け人の一人、大城尚子氏は「県民投票の全県実施が最優先のはずだ。賛成でも反対でも県民が自分の意思を直接表明できる機会を守ることが第一で、政局の問題にしてほしくない」と語る。請求代表者の一人は「全市町村実施じゃないと県民は納得しない」と話し、条例を改正すべきだと強調した。 (県民投票取材班)