〈解説〉石垣陸自投票否決 民意 一層亀裂も


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票条例案を市議会が否決した。条例案の中身に踏み込んだ議論はなされず、「住民が蚊帳の外の外の外に置かれた」(市住民投票を求める会の金城龍太郎代表)まま、1万4263人の願いは置き去りにされた。

 生煮えの議論で否決に至った結果は、与党だけでなく野党にも責任がある。県民投票との同日実施を狙い議論終結を急いだため、実施に反対・慎重な与党の理解を得る姿勢を欠いた。このため1万4千筆超の署名の重さから実施反対の意思に濃淡のあった与党内を反対で固める結果を招き、「審議が不足している」(平良秀之議長)という否決理由を、自ら提供した格好にもなった。

 ただ、そのような「野党の大失態」(与党市議)も、与党が住民投票を否決する上で説得力のある理由にはならない。配備計画に関する中山義隆市長の市長選での主張や市議選での一部与党市議の主張を踏まえると、配備についての民意が出たとはいえないからだ。1万4千人以上が氏名や住所をさらしてまで署名したことが、その何よりの証拠といえる。

 造成着工が目前に迫り「時機を逸した」との主張もあるが、年度内着工の面積は全体のわずかな面積に過ぎず、全体のおよそ半分を占める市有地の売却も決まっていない。民意を問う意義は大きかった。

 若い世代を中心に住民投票へのうねりがあっただけに、署名した市民の願いが実現しなかったことで、若年層の政治不信に拍車を掛ける懸念もある。

 今後、配備に向けた動きの加速化が予想される。ただ1万4千筆超の署名は計画への懸念に加え、配備ありきの防衛省や市の姿勢への不信が積み重なった結果だ。意思表示の場が奪われた現状では両者が前のめりの態度を崩さない限り、二分された民意の亀裂がさらに深まりそうだ。丁寧に市民の声に耳を傾け、立ち止まる姿勢が防衛省や市には一層求められる。

 (大嶺雅俊)