考えた先 本質見える「一人一人が主体性を」 芥川賞作家・又吉栄喜さん 〔未来を築く 2.24県民投票〕1 


社会
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自宅の書斎でインタビューに答える作家の又吉栄喜さん=5日午後、浦添市(田中芳撮影)

 浦添市の米海兵隊牧港補給地区(キャンプ・キンザー)のそばで育った芥川賞作家の又吉栄喜さん(71)=同市城間=は幼少期に見た米兵たちの姿が強く記憶に残る。創作の原点は戦争に翻弄(ほんろう)された米兵の様子や基地の風景だ。以来、米軍や戦争、それに苦難を乗り越える沖縄の民衆の力を題材に小説を描いてきた。

 「戦争は関わる人を被害者にも加害者にもする」。そんな矛盾やジレンマを米兵たちから学び、豊かな生き方とは何か、問題に向き合い考えることの大切さを伝えようと執筆活動に力を入れる。今回の県民投票も同じことと思う。「考えに考えた先に本質が見えてくる。一人一人が主体性を持って向き合ってほしい」と沖縄の未来を築く一歩になることを期待する。

 又吉さんは終戦後の1947年、浦添城跡に米軍が設置した収容所で生まれた。しかし幼少期の50~60年代もフェンスの向こうはベトナム戦争で慌ただしく、沖縄は戦後も戦争の空気を引きずっていた。

 又吉さんが当時頻繁に出入りした浦添市城間と屋富祖の間を通る屋富祖通りは、キンザーに駐留する米兵たちでにぎわう繁華街で「米兵がいる風景は日常」だった。バーで見た米兵たちは人生を楽しんでいるようで身近に思えた。しかしフェンス越しの姿は殺気立ち恐怖した。中には泣いている米兵も。子どもながらに精神的に壊れているのを感じ取った。

 初期作「ジョージが射殺した猪(いのしし)」は精神の均衡を失った主人公を描いている。小説の中でジョージは沖縄の老人を「猪だ」と自分に言い聞かせ射殺する。又吉さんは「戦争は加害と被害を混在させる。その矛盾、悲惨さを描いた」と説明。その上で「ベトナム戦争では地域の知り合いも基地内で働き砲弾を積んだ。世界から見れば沖縄も加害の立場だった」と指摘した。

 現在、題材となったキンザーは国道58号に接する約2キロ、約3ヘクタールの返還に向けた工事が進む。基地内に人けはあまり感じられない。「役割を終えている」。近くで今も暮らし続けている又吉さんはこう表現し、時代にそぐわない長物に首をかしげる。

 その中で進む米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画。「本当に必要なのか。沖縄の基地問題は世界にとっても普遍的な問題として横たわっている。被害を知る沖縄が加害者に回りかねない」と警鐘を鳴らす。

 一方で時代が移り、若い世代には米軍も戦争も遠くなっているのを感じる。「だからこそ今、新たな基地ができることに考えを巡らせてほしい」と強調する。米軍基地や平和への向き合い方が縮こまっていく懸念がある中で、県民投票が特に若者たちの自信とたくましさを芽生えさせる機会になることを切望した。

  (県民投票取材班・謝花史哲)

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 24日に実施される辺野古新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票。創作や表現活動に携わる文化、芸能関係者に意義などについて聞いた。