投票は棄権それでも… 辺野古住民「全国で考えて」


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 県民投票の開票作業が終盤に向かいつつある24日午後10時20分ごろの名護市辺野古にある不動産会社の事務所。テレビ画面には「『反対』4分の1に到達確実」とのテロップが映し出されていた。前辺野古商工会長の飯田昭弘さん(70)はテロップを見詰め、つぶやいた。「これを何につなげるかだ」

スマートフォンの投票速報に見入る飯田昭弘さん(左)=24日夜、名護市辺野古

 新基地建設に伴う名護市辺野古の埋め立てを問う県民投票は、「反対」の得票が43万票に達し、投票総数の72%を占める結果となった。

 「県と国の裁判の材料になるのか、国際的に訴えるのか。示された民意が何に使われるのか分からない」。飯田さんはその疑問を解消できず、悩んだ末に投票に行かなかった。だが、投票結果を受け、飯田さんは訴える。「全国が沖縄の過重負担の軽減を考えて」

 海上ヘリポート基地の是非を問う1997年の名護市民投票と比べ、今回の県民投票では辺野古区民に目立った動きは見られなかった。市民投票の投票率が82・45%だったのに対し、県民投票の同市投票率は50・48%にとどまった。辺野古を含む久辺3区ではさらに低い41%と、市内13の投票区域の中で最低だった。辺野古を歩くと「県民投票は結果ありきだ」「意味がない」との声を聞いた。「投票は行かなくてもいいさー」。そんな会話を交わす人もいた。

 辺野古区は地元の振興を願い、条件付きで「基地容認」を掲げてきた。しかし、区民の思いは複雑だ。自営業の60代男性も容認の立場だが、今回「反対」に投じた。「『地元は移設についてもろ手を挙げて賛成している訳ではない』との意思表示だ。ノーと言うべきときはノーと言う」と強調する。

 男性は当初、投票に行くかどうか迷った。区内には、反対を呼び掛けるのぼりばかりがはためいていた。「投票に行ったら『反対に入れた』と見られるのでは」。そんな思いが頭をよぎったが、一票を投じた。反対票を投じることへのむなしさもある。「『最低でも県外』と訴えた民主党政権でも辺野古移設は変わらなかった」と嘆く。それでも「県民の義務」と意思表示した。

 名護市役所近くの新基地建設反対県民投票連絡会事務所では開票状況が伝わる度に歓声が起きた。集まった市民らは笑顔を見せ、「これが民意だ。辺野古埋め立て反対」と書かれた垂れ幕を掲げた。ヘリ基地反対協議会共同代表の安次富浩さん(72)は「よしっ」と拳を握りしめた。「民意は変わらないことを改めて示した。政権に県民の民意を実現させるため、運動を続けたい」と決意を新たにした。

 「埋め立て反対」の民意が示された投開票から一夜明けた25日の辺野古。米軍キャンプ・シュワブ沿岸部で、政府は新基地建設に向けた土砂投入を強行した。ゲートからは工事資材が搬入され、市民たちは、搬入を阻止しようと体を張っていた。

 「バラバラバラ」。ゲートから約900メートル離れた辺野古の集落内では、基地からの射撃音が響いていた。70代の無職男性は「いつものこと。山に向かって撃つので、流弾の心配はない」とあっけらかんとしている。新基地建設も「普天間よりは辺野古の海上のほうが安全だ」と容認する。だが、不安は隠せない。「実際に飛行機が飛び始めたら、区民は後悔するかもしれない」。男性は顔を曇らせた。

 (塚崎昇平)